日本人は成功より「失敗しないこと」を重んじる傾向があり、失敗を避けようとリスクに背を向け、何もしない、という本末転倒な行動に出がちだ。
病的なリスクテイカー(リスクを冒す人)になる必要はないが、長い人生、あえてリスクを取るべき場面は幾らでもある。すくむ足を一歩進めるには、どうしたらいいのだろう。
英サセックス大学の研究グループは、英国在住の70人(女性46人、男性24人、平均年齢25歳)と、ベトナムに住む71人(女性45人、男性26人、平均年齢20歳)に、ベーシックな五味──甘味、苦味、酸味、塩味、うま味のいずれかの液体を飲んだ後「リスクテイカー度」を測る「風船課題」に取り組んでもらった。
風船課題とは、コンピューター画面上の風船にワンクリックで空気を送り込むゲームで、より多く空気を入れるほど報酬が増え、風船が破裂したらご破算というもの。
参加者はワンクリックごとに、やめるか否かの選択ができる。ギリギリまで風船を膨らませる人は、利益のために大きなリスクを取る傾向があると見なされる。
その結果、酸味の液体を飲んだ後のクリック回数が最も多く、平均40回に達した。これはうま味や甘味後の4割増、苦味や塩味後の2~1.5割増に相当する。
つまり酸味を口にした後は、国や地域、行動パターンに関わらず、有意に大胆な勝負に出ることが判明したのだ。逆にうま味や甘味は慎重さを、苦味や塩味はニュートラルな行動を誘発するらしい。
研究者は「酸っぱいものを口に入れること自体がリスクを選択する行為であり、現実の酸味がリスクへの抵抗感を軽減するのだろう」と推測している。また、社会生活を脅威=リスクと見なし、家に引きこもりがちな不安障害やうつ病の人には「酸味の強い食事が効果的かもしれない」という。
梅干しや野菜のえぐみが敬遠され、甘いものやうまいものが溢れる昨今、考えさせられる話だ。
さて、ここ一番の勝負に出る際は酸味が強いおやつを持参するといい。ただし、投機的な取引前にはお勧めしません。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)