以上、「女性社員は女性上司の下につけるのがいい」という俗説がかなりあやしいということを見てきました。そこには同性ならではの問題が起こり得るようです。
もちろん、だからといって僕は「上司・部下の組み合わせは『異性』のほうがいい」などと結論づけるつもりもありません。上司の性別は、部下のキャリア意識には、統計的有意な差を生み出さないわけですから、マネジメントを行うときは、性別を超えて真摯に部下と向き合うことが重要でしょう。
立教大学経営学部 教授/立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長/立教大学BLP(ビジネスリーダーシッププログラム)主査/大阪大学博士(人間科学)
1975年北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国マサチューセッツ工科大学、東京大学などを経て、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。妻はフルタイムで働くワーキングマザーで、2人の男の子(4歳と11歳 ※本書刊行時点)の父親でもある。
著書に、今回発売となった『女性の視点で見直す人材育成』のほか、『企業内人材育成入門』『研修開発入門』『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(以上、ダイヤモンド社)など多数。
トーマツ イノベーション株式会社
デロイト トーマツ グループの法人で2006年に設立。中堅中小ベンチャー企業を中心に、人材育成の総合的な支援を行うプロフェッショナルファーム。支援実績は累計1万社以上、研修の受講者数は累計200万人以上と業界トップクラス。定額制研修サービス「Biz CAMPUS Basic」、モバイルラーニングと反転学習を融合した「Mobile Knowledge」など、業界初の革新的な教育プログラムを次々と開発・提供している。
著書に『女性の視点で見直す人材育成』『人材育成ハンドブック――いま知っておくべき100のテーマ』(ともにダイヤモンド社)がある。
なぜいま、「女性の働く」を科学するのか?
――著者・中原淳からのメッセージ
このたび、『女性の視点で見直す人材育成――だれもが働きやすい「最高の職場」をつくる』という本を、トーマツ イノベーションのみなさんと一緒に執筆させていただきました。この本の内容は、あえてアカデミックな言い方をすれば、「ジェンダー(文化的性差)の視点を取り入れた人材育成研究」ということになります。
誤解しないでいただきたいのですが、同書は決して女性のためだけの本ではありませんし、ましてや男性のためだけの本でもありません。この本には
・部下を持つリーダーやマネジャー
・社内の人材育成を担当する人事・研修担当者
・社員の採用・育成に責任を持つ経営者や経営幹部
のみなさんにぜひ知っていただきたい「これからの時代の人材育成のヒント」が凝縮されています。
……では、なぜ、わざわざジェンダーに着目して、企業内の人材育成を見直すのでしょうか?
僕たちが働く職場では、日々、なんらかの機能不全が起こっています。こうした職場の機能不全は、順調にキャリアを積み上げている職場のマジョリティ(多数派)には、なかなか見えづらいものです。あるいは、これらの事実に気づいても、見えないふりをするかもしれません。
一方、現代の職場では、育児・介護・ハンディキャップ・病気など、さまざまな事情を抱えながら働く人々――いわば職場のマイノリティ(少数派)が増えてきています。これから数十年のあいだに、おそらく「ダイバーシティ」のような言葉は、おおよそ「死語」になっていくでしょう。わざわざそんな言葉を使わずとも、おそらく職場は“そのようなもの”になっていくからです。
しかし目下のところでは、組織が抱える問題のしわ寄せを真っ先に受けるのはいつも、そうしたマイノリティたちです。子育て中のワーキングマザー、家族の介護をしている人、病気を抱えつつ働いている人……彼らこそがまず、「職場の課題」に相対し、「うちの職場はココがおかしい!」と疑念を持ちはじめます。
「さまざまな事情を抱えた人々が、やりがいを感じながら長く働き続け、
かつ、幸せな人生を営むためには、何が必要なのか?」
これがいまの僕の、最も大きな関心事です。そして、それを考えていくうえでの「思考のファーストステップ」として、僕たちは、「ジェンダー(文化的性差)」の視点を選び取りました。誤解を恐れず言えば、男性中心文化がいまだ支配的な日本の職場において、女性には“最もメジャーなマイノリティ”としての側面があるからです。
僕たちは信じています。今後、女性にすらやさしいチーム・職場・企業をつくれない人・組織は、ダイバーシティの荒波に直面したときに、まず間違いなく暗礁に乗り上げます。そうした職場は、魅力的な人材を採用することも、志溢れるプロジェクトを率いるリーダーを育成することも難しくなり、人手不足に苦しむことになるでしょう。
未来の職場において結果を出し続けたいと願うマネジャー、優秀な社員に働き続けてほしい人事担当者・経営者……これらすべての人にとって、「女性視点での職場の見直し」は、今後の成否を大きく左右する試金石の一つとも言えます。ぜひ『女性の視点で見直す人材育成』を参考に、だれもが働きやすい「最高の職場」をつくっていただければと思います。