「チェンジ」ではなく「トランスフォーメーション」
そして、他にもいろいろな変革を推し進めようとしていたという。
「そのひとつが、クラウドビジネスでした。スティーブが変革しようと部分的にスタートしていたものを、サティアが活用して変革を図った面もあるんです。ただ、既存のリーダーが『変わる必要がある』と言うのは、なかなか言い出しにくいことでもある。ときに、リーダーそのものを変えてしまわないと社員は変わらない、という意識がスティーブにもあったと思います」
そしてスティーブ・バルマー前CEOは、ナデラCEOが改革を推し進めやすくするべく、さまざまな手を打っていった。変革の阻害要因になるような環境、人、社内政治的な状況も排除した上で、退任していったのだ。
言ってみれば、ビル・ゲイツ氏がやってきたことも、スティーブ・バルマー氏がやってきたこともすべて忘れていい、と言っても過言ではないほどの状況を作っていったのである。ここまで思い切ったことをしなければ次の未来はない、と考えたのだろう。
ただ、ナデラCEOによる変革で、いきなりすべてが変わったという見方をマイクロソフトはしていない。「チェンジ」という言い方も好まない。行ってきたのは、「トランスフォーメーション」である、と。
過去を否定しているわけではない。それも受け入れながら次を見てきた。社内にもそうメッセージしていったのだ。前出のティム・オブライエン氏はこう語る。
「だから社員からは幅広く受け入れられた印象があります。社員は、業界がどこに向かっているのかはっきり見えていました。スティーブも、それがよくわかっていた。だから、変革のための基礎を築き、サティアがそれを加速させていったんです」
だからその変革は、意外にも心地よいものだったという。
「サティアはさまざまなメッセージを残しましたが、最も印象に残っているのは、学習せよ、話すより聞け、でした。自分が持っている知識をいかに披露するか、ということが重要だと思われていたところがありましたが、サティアはそうではないと。わかっているからこそ、もっと学習しなければいけないんだ、と。これは新鮮でした」
実は多くの社員たちは、本当は何をしなければいけないのか、わかっていたのである。創業以来、長く引き継がれてきた変化のDNAが再び花開いた、といえるかもしれない。