企業は巨大になればなるほど保守化し、いわゆる「大企業病」にかかる。マイクロソフトも、その危機に直面した。社員がマインドセットを行い、成長し続けるためにはどうすればいいのか。大変革に成功したマイクロソフトが変革の軸に据えるのは「カルチャー変革」。そのために実践しているものの一つに、「新しいカルチャーに息を吹き込む10の習慣」という行動規範がある。3000人以上を取材したブックライターの上阪徹氏が、日米幹部への徹底取材で同社の全貌を描きだす新刊『マイクロソフト 再始動する最強企業』から、内容の一部を特別公開する。
王者が描く「チャレンジャー」戦略
全盛期を過ぎたと思われていたマイクロソフトは、サティア・ナデラCEOの就任を機に大変革を行い、復活を成し遂げた。
しかし、変革の伏線は、前任者である2代目CEOのスティーブ・バルマー氏の時代に始まっていた。スティーブ・バルマー氏がCEOに就いていた時代は、マイクロソフトがソフトウェアの世界で圧倒的な力を持ち、驚くほどの成長を遂げていた時代。
マイクロソフトの成長がいかに凄まじいものだったか。売上高を比較してみればわかる。
1980年 800万ドル
1990年 1億8350万ドル
2000年 230億ドル
2010年 625億ドル
2015年には936億ドルの売上高を記録し、IT業界の巨艦、IBMを売上高で追い抜いている。
こうなれば、周囲の見方も社員の見方も、こういうものにならざるを得ないだろう。
“パソコンのOSで95%のシェアを誇るWindowsを手がけている世界最大のソフトウェアカンパニーで、パーソナルコンピューティングの世界の独占的地位にある会社”
しかも、こうした状況が何年も続いていったのだ。圧倒的な存在感、さらには成長への強烈な意欲はマイクロソフトの強さでもあったが、会社が巨大になればなるほど保守性にもつながっていく。いわゆる大企業病だ。
新しいことをやるよりも、これまでの延長線上でビジネスをやっていたほうが先が読める。それなりの成長もできる。そんななかで、「イノベーティブになれ」「チャレンジしろ」と言っても難しさがあったことも想像できる。
実際、新しいチャレンジをしない、保守的になっている、という社内からの批判の声もあったという。
そんななかでスティーブ・バルマー氏は危機意識を持った。退任する2年ほど前からメッセージを変えていったのだ。
そのひとつが、自分たちはチャレンジャーである、という言葉だった。それは、次なる時代への強い危機感だったのだろう。業務執行役員 コーポレートコミュニケーション本部 本部長の岡部氏は言う。
「パソコンのOSではたしかに90%以上のシェアがある。Officeは世界中で使われている。しかし、パソコンに限らず、スマートフォンだったり、タブレットだったり、そういったものも合わせると、シェアは十数%しかないじゃないかと。社員にも言い出しましたし、社外にも言いました。チャレンジャーとして戦略を描いていかないと、競争に勝てないということです」
そしてもうひとつ、後にナデラCEOがカルチャー変革の一環として推し進めることになる、組織の壁を取り払う活動もバルマーCEO時代の後半に進められていた。
本社でクラウドとストラテジーの最前線で活躍し、現在はグローバルコミュニケーションのゼネラルマネージャーを務めるティム・オブライエン氏は言う。
「スティーブは退任する2年前に、イニシアチブをスタートさせました。組織内でいろいろなコラボレーションが起こるよう、職場環境を変えていこうとしたんです。もっとチームワークを良くしよう、部門間での業務の協業をはかどらせよう、と。これが、“One Microsoft”という名のイニシアチブでした」