私自身もこの『夢の国〜』を読んでみた。すると意外にも、水力発電所に関する提言はほんの一部だ。政治、エネルギー、経済、自然。アンドリはアイスランド人にとって分かりやすい事例やエピソードを交えながら、自分たちがあらゆる局面で国の小ささや資源の有限性を忘れがちなことを、皮肉たっぷりに指摘している。
しかし、中でも目を引いたのは、中盤に綴じ込まれた「青いページ」だ(残念ながら日本語版には掲載されていない)。この青いページに書かれていたもの――それは、アルファベット順に並んだ、アイスランドの全農家の名前である。
自国の言葉で書かれてはいても、多くのアイスランド人にとって、このページにある固有名詞には何の意味もない。しかし、青いページに続く彼の問いかけに、その意図は表れている。
「アイスランドの道路をひた走れば、次から次へと農場の標識が現れては消える。その農場の名前を目にしたとき、なぜ私たちは、その彼らがつくる農作物に思いを馳せて、涎が出そうにならないのだろう?『去年のクリスマスに食べた、あの牧場の羊はおいしかったね』と思い出し、その農家のドアをノックして感謝の気持ちを伝えたい、となぜ思わないのだろう?」
3、4世代も前に遡れば、国民の8割が自然に対峙する職業に就いていたアイスランドだ。にも関わらず、アイスランド人は一体いつからこんなにも「名もない生産者」と「その他大勢の消費者」に分かれてしまったのか。そして自分たちの土地が生み出す価値や、農家の生産と加工の技術と、かくも断絶してしまったのか。彼らはアイスランド人に強く問いかける。
「アイスランド人にとって耳の痛い話」――しかし、それは私たちにとっても同様である。