内と外の協業が生み出す新しくて大きな地域の価値
このプロジェクトが象徴するもの――それは、寒冷期や火山噴火などに見舞われながらも、今日まで持続的に農業を可能にした先人の知恵と、決して肥沃ではないが特定の野菜や羊などを育てることのできるアイスランドの自然の豊かさだ。そして長い歴史と近代化の中で、無意識に消費されていた生産物に、デザイナーたちが外からの価値観を持ち込み、協業の中から新たな製品を創りだした。プロジェクトのホームページの中で、前述のソルグリムルさんはこう述べている。「私は酪農のことは何でも知っていると思っていた。しかし実際にはまだ何もやっていなかったんだ」
私たちは、ソルグリムルさんと学生が共同で生み出したデザート、スキール・コンフェクトを携えて帰国した。アイスランド特有の乳製品であるスキール。それを覆う牛の乳の形をしたホワイトチョコレート。アイスランドの一酪農家が丹誠込めて一つずつ作った、希少なデザートだ。スイーツ天国の日本のスタンダードからすれば素朴だが、このお土産を口にした人の微笑む顔を見て、プロジェクトが確実に新しい価値を生み出していることを改めて認識した。
「デザイナーズ&ファーマーズ」を通して感じたこと。それは環境を熟知している内なる人間と、新たな視点で観察し、共に何かを生み出そうという外の人間の協業が生み出す力だ。そしてこの力はアイスランドに限らず、日本、特に震災を契機に地域や国を超えて人と人との交流が盛んになっている被災地でも見えはじめている。
次回から、連載の舞台を少しずつ日本に移し、そうした新しい試みやその芽を紹介していく。