顧客は解約する本当の理由を
アンケートに書かない

唐突ですが、恋人に別れを告げようとして理由を聞かれたら、あなたはどうしますか。
正直に理由を答える人は多くないと思います。なぜなら、別れること自体が目的のあなたにとって、理由を伝えることに意味はないからです。

ところが、その意味がないことを多くの企業はしています。顧客が解約する際に、なぜ解約するのかと理由を尋ねてしまっているのです。WOWOWが解約申し出の電話に対して当時行っていたアンケートもそれと同じです。

このアンケートの結果では、当時解約の理由として返ってくる答えの半分以上が「見る時間がない」と「見たい番組がない」でした。

仕事や家事が忙しいから見る時間がない、加入したものの見たい番組が放送されていない、という意味ですが、どちらも、顧客自身、加入する時に予測できたはずです。見る時間がないならなぜ加入したのか、と言いたくなる(言えませんが)、これらの回答は、解約の本質的な理由を示していません。

そしてこのような理由では、企業側は改善を図るための次の一手が打てません。解約を目的に電話してきている顧客の多くは、「自分が口にしやすい」「相手が質問を返しにくい」内容を無意識に選んで回答しているだけなのです。

多くの企業の担当者が、顧客の離脱理由について「うちはアンケートで把握している」と答えます。もちろんやり方によってはアンケートも有効ですが、顧客の解約理由や背景は複合的で、単に質問を並べたアンケートでは、なかなか明らかになりません。WOWOWも通り一遍なアンケートでは本当の構造はつかめませんでした。

顧客自身も意識していない
解約への流れを探るには

たとえば、アンケートでこのような詳細な質問を投げかけたとします。

「加入する時にはどんな期待をしていたか。それは満たされたか、裏切られたか」
「加入直後には、どんな番組をどのような頻度で見ていたか」
「2ヵ月目以降は、どんな番組をどのような頻度で見ていたか」
「番組の見方に変化があったのはいつか。それはどのような変化できっかけは何か」

この質問に対して、正直に詳しく回答してくれる顧客はなかなかいないでしょう。

多くの顧客は、加入前に何を期待していたか、サービスが期待通りだったかを、すぐに答
えられるほど詳細に記憶していないからです。

それは当たり前のことで、企業は切羽詰まった必要性があって解約理由を探ろうとしますが、顧客にとってサービスへの加入や解約は、生活の中のあまり意識を向けることがない一部分にすぎません。

だから一律な質問に全員が同じ形式で答えるアンケートでは、個人の深層にある解約理由が語られず、解約の構造もつかめないのです。

一般的に行われているネットの利用意向調査などで、顧客の判断理由を想像して細かく選択肢を並べているものに出会いますが、それでは大ざっぱな傾向はつかめたとしても核心には行きつかない危険性を感じます。

本当の理由は準備して選ばせるものではなく、丁寧に話を聞いて探し出すものです。

生活の変化が利用の変化にどう影響するのか、商品の質やラインナップが顧客の気持ちの変化をどのように起こしているのか、といった内容は、ゆっくりと時間をかけて当時のことを思い出してもらい、そのきっかけになったことを話してもらわないと把握できないのです。

(続く)