今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。
新規獲得で成功した手法は、
解約防止でも徹底させる
第9回では、新規顧客向けの割引施策に力を入れすぎて経営難になったゴルフクラブの例を、そして前回の第10回では、そうした実例を踏まえて、WOWOWは、新規獲得だけでなく、解約のリテンションにも力を入れることにした、ということをご紹介しました。
今回は、その続きである、解約リテンション、つまり解約しようとする人に思いとどまっていただく施策の詳細をお話しします。当時のWOWOWは、解約の申し出はすべてカスタマーセンターへの電話のみで受け付けており、その中の一部に対して、コミュニケーターがリテンションを行なっていました。
改めて調べてみると、成功率が20%にも達するハイパフォーマーもいれば、50件受けて1件も成功していない人もいて、会話の仕方が成功に大きく影響することが推測されました。
ハイパフォーマーの成功例の会話を分析すると、相手が解約したいという気持ちにいたった背景をうまく聞き出し、それに対応して「もう少しWOWOWを見てもいいかな」と態度変容させるトークが展開されていました。
コールセンター業界では、契約獲得の成功率が高いハイパフォーマーの手法をほかのオペレーターも共有して、全体のパフォーマンスをアップさせるやり方が普通に行われています。
WOWOWでも、新規獲得の場面でのトークについては、センター内でハイパフォーマーの手法の共有が徹底されていました。しかし、成果へのこだわりが薄かった解約リテンションではそれがあまり行われていなかったのです。
コールセンターの活用で、
解約を思いとどまる率が倍増!
そこで、まず私たちは解約リテンションにも成果へのこだわりを持ち込みました。
月ごとにコミュニケーター別、チーム別に成功率を発表し、成果を競う形にしたのです。また、コミュニケーター別の成功率に応じた追加手当の支給や、成功率の高いチームや個人を表彰するなど、モチベーションを高める仕組みも導入しました。
さらにハイパフォーマーのトークをもとにトークスクリプトを作成し、成功する会話はどこが違うか、何が顧客の気持ちを変えるのかを担当全員で共有しました。
成果へのこだわりを導入したこと、顧客の態度変容のポイントを共有したことによって、解約リテンション施策の平均成功率はそれ以前の5~6%から、倍の10%を超えるようになりました。
年間50万件を超える当時の解約申し込みに対して、リテンションを行えたのは、かかってきた解約電話のごく一部だったので、翻意させられた成果はまだ小さなものでしたが、その数以上に「解約は止めることができる」ことを全社に知らせることができたのは、大きな意味がありました。