今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。

会員制ビジネスでは
「目先の会員増」にとらわれてはダメ

前回は半額施策で新規顧客を集めていたゴルフクラブが、結局、経営難においちり、他社に買収されたという例をご紹介しました。

 このゴルフクラブの例でわかるように会員制ビジネスで重要なのは、「目先の会員増」ではなく、「長期利用を前提とした会員増」の視点です。

 同様に当時のWOWOWも、顧客に接触する最初の段階から、今入れば会費が安くなるというセールストークが中心で、最も重要な「顧客がどのような体験ができるか」「他社にない自社の価値は何か」といった長期利用してもらうために顧客に伝えなければいけないことが伝わっていませんでした。

 また「安くなるなら、まあいいか」と入った新規顧客に対しても、割引期間終了後も続けてもらうためのコミュニケーションが必要でしたが、それも十分ではなかったのです。
 会員制ビジネスでは、「お客様を大切にしよう」と思いつつ新規の顧客取得ばかりに目が行ってしまい、長期契約者への配慮が後回しになりがちです。

「釣った魚にエサはやらない」、とは決して考えていないのに、実際には次に釣る魚にエサをまく方に力が入ってしまう構造になってしまっているのです。

 そして、これを数年間続けると負のスパイラルが形成され、顧客からも「長期利用を前提としていないサービス」として認識されます。実際、このゴルフクラブでも「ビジター割引と初年度半額」を実施して3年目に、経営者はこの施策を止めようとしました。しかしすでに市場の評価が「半額程度の会費のクラブ」に定まっており、変革するタイミングは過ぎてしまっていました。

 そうなる前に、「長期利用を前提とする構造」にしていくための「変革の芽」をマーケティングや営業の現場で作ることが大切だと私は考えています。