相手は一応「本当にいいんですか?」と尋ねてきたが、Cさんがうなずくと心得て、Cさんをベッドに座らせ、自分はそこから適度な距離を置いたところに腰かけた。それからCさんは飲み物を片手に1時間半、みっちり世間話をして帰ってきたそうである。Cさんはネクタイを緩めることも相手に指一本触れることもせず、「ソープランド入店」というアウトな事実はあるものの貞操をしっかり守ってその日を終えたのである。

 翌日二日酔いで目を覚ましたCさんを襲ったのは激しい自責の念であった。なぜあの場所に足を運んでしまったのか、自分は不倫をしようとしていたのか…。自分がこれまで積み上げてきた人生(主に精神的な部分)を、あの一夜で一瞬にして破壊するところだったのだ。すんでのところでカタストロフィをかわすことができたCさんは身震いをした。

「あの時、さらに自分の中の決意が強くなりました。『不倫は絶対にしない!』と」

 そんなCさんの貞操だが、これが守られているのには夫婦仲の良さにもよるのだろう。銀婚式を終えてゆうに数年が経過しているCさん夫妻だが、今でも週に2、3日の夫婦の営みが欠かさず持たれているそうである。この件に関してはあまり深く聞くことができなかったが、これはCさんの貞操を分析する上で非常に大きな材料である。

 特にAさん、Bさんの場合、Cさんのような不退転の決意に基づいて貞操が守られているわけではないようである。さまざまな事柄がうまくバランスを保つことで成立している貞操であり、Cさんに見るような鋼のごとき安定感はない。

 しかし貞操が守られていることに違いはなく、これは重い事実である。Aさん、Bさんも口で語るよりももっと深い部分でなんらかの決意を持っている可能性はあるだろう。

 貞操を貫く不惑の胸中は、知ってみれば意外となんてことないようでもあり、いざまねしようとすると意外と難しいものなのかもしれない。