今治船主は、資金面でも恵まれている。船の運用などで得た資金を返済原資とする「シップファイナンス」で銀行がせっせと融資し、船主の経営を支えているのだ。

 「地元船主とは強い信頼関係がある」(日野満・愛媛銀行常務取締役)。船の融資には船ごとの年間収支を精査するなど、独特なノウハウが必要だ。メガバンクはもちろん、船主とがっぷり組んだ船舶業界に詳しい地方銀行の存在も今治船主の成長に貢献してきた。

 そして、この今治船主たちは、日本の造船所を重用している。舶用機器のメンテナンスやトラブルに即座に対応してもらうには、気心が知れた舶用機器メーカーを使っている日本の造船所に頼むのが一番だと判断しているからだ。国内の船主でも、海外の造船所への発注を厭わない向きが増える中では貴重な存在といえる。

 有力かつ日本の造船所にこだわる船主が複数いる──。今造には、海事クラスターという受注確保における強い後ろ盾がある。

自社グループ内に百隻保有の船主会社
重工系にない強み

 今造の強みは、地の利ばかりではない。その最たるものが正栄汽船だ。今造は、グループ内に船主業を営む会社を持っているのだ。

 最大のメリットは、自らリスクを取って船を保有することで、コンスタントに受注を稼ぐ仕組みが敷けるところだろう。

 例えば、今造は商船三井と台湾エバーグリーンから2万個積みの超大型コンテナ船を13隻受注しているが、このうちの一部は正栄汽船が保有している。

 2万個積みのコンテナ船は、約200億円もする代物だ。これでは、資金の80%を借り入れで賄うとしても40億円もの自己資金を用意せねばならず、多くの船主はリスキー過ぎて手を出せない。

 しかし今造がグループ内で保有する決断を下せば、海運会社を後押しすることができ、連続建造契約が結べる。海運市況が落ち込んで船の発注が減った場合も、正栄汽船保有の船を造れば造船所の稼働率を保つことができる。

 このように、正栄汽船は多いときには実に100隻もの船を保有しているとされる。船主会社を持つ造船所は珍しくないが、多くても25隻程度の保有にとどまる。

 では、なぜ正栄汽船はこれほど多くの船を持てるのか。「いざとなったら、地縁、血縁を生かしてどうにか売り抜くことができるからだ」とある船主は解説する。

 船価高騰時には、中古船にすら人が殺到する。ハイリスク・ハイリターンの商売だけに重工系は踏み込みにくいが、“野武士集団”の今造ならば積極的に展開できる。