安倍晋三首相の発言が波紋を広げている。自由民主党の総裁選挙中、日本記者クラブで9月14日に行われた石破茂元幹事長との討論会において、日本銀行の異次元金融緩和策の出口に言及したのだ。この発言の真意はどこにあったのだろうか。
首相の発言を聞き直すと、報道のヘッドラインとは異なる印象を受けた。記者から「日銀はGDP(国内総生産)並みの国債を持つようになったが、こんな不正常な政策を次の政権に引き継ぐ無責任なことをするのか」と聞かれたので、首相は「ずっとやっていいとは全く思っていない」と答えた。
他方で首相は、この5年半の黒田東彦・日銀総裁による異次元緩和の効果を高く評価していた。現状についても「やっと給与が上がってきて、消費もだんだん持ち直している」と、「黒田緩和」を含むアベノミクスの功績を強くアピール。この流れが今後も続いて日本経済がさらに良くなれば、首相在任中に出口に進むことができる、といった趣旨の説明だった。
そして、異次元緩和の副作用には特に言及しなかった。つまり、安倍首相は日銀が出口に向かうことに力点を置いたのではなく、出口に行けるような経済状況の実現が重要と説明していた。そのため、この発言が日銀の目先の政策に影響を与えることはないだろう。
とはいえ、この日の首相の発言には非常に興味深いものもあった。「(インフレ率)2%の物価安定目標を数値として目指していくが、その目的は雇用を良くしていくことにある」という発言だ。2%へのこだわりがさほど強くないならば、雇用や景気を減速させない範囲で日銀が金融政策を微調整することはいずれ可能となるだろう。