私がアドバイスしている企業の中には、社員の通勤圏内をブロック分けして、ブロックごとに緊急連絡所を設けている企業もあります。最悪、自宅にも会社にも来るのが大変な場合には、バックアップスペースとして用意している自社の営業所や代理店の緊急連絡所に出社します。そこには、非常電源とパソコン、非常用の物資を置くなどしているので、業務も行うことができます。
バックアップスペースを作るとなるとコストも気になるところですが、必ずしもオフィスを作る必要はありません。ビジネスホテルなどの場所をあらかじめ災害時だけ借り上げる契約をして、社員が集まれるようにしておけばいいのです。
備蓄は朝、昼、晩で違うメニューを用意
おいしいものを安く用意するのがコツ
物で言えば、東京都の帰宅困難者対策条例でもあるように、平均的には3日分程度の備蓄でいいでしょう。しかし、大企業ではできていても、コストの問題や切迫性のなさから、中小企業ではできていないことも多いと思います。
そこで私は、3つのブロックに分けて備蓄をすることをおすすめしています。1つは、発災直後における全社員1日分の備蓄です。2つ目は、社員の半数の3日分の備蓄。3つ目は、防災対策要員が1週間過ごせる分の備蓄です。
物資を備蓄するときにも、シチュエーションを考えながら揃えましょう。全員が徒歩で帰れるのか。帰れない人が多いなら、最初の1日は保護するため、水、食料、トイレ、寝具の準備が必要になります。
備蓄の食糧は乾パンやレトルトもいいですが、ちょっと工夫することをおすすめします。朝食用、昼食用、夕食用に分けるのです。長期戦になった場合、防災担当要員は栄養失調になりやすくなります。配給される食糧は炭水化物ばかりになりがちで、便秘やイライラなど体にいろいろな弊害も出ます。だから朝は、クラッカーとスープ、昼は麺類(パスタ)、夜はカレーなど、バラエティやメリハリをつけるのです。
実のところ、こうした工夫をしたほうがコストも下がります。保存用の食糧などを用意するとコストが高く、保存水は2リットルで650円もするものもあります。普通の水ならば、賞味期限は2年ほどですが、2リットル100円程度で買えます。つまり、リーズナブルに余分に備えられるのです。2年後になったら、試食したり、飲んだり、よかったら持って帰ってもらえばいいだけです。
偶然なのですが、北海道で地震が起こる直前の8月30日に防災管理者向けに講演をしました。「北海道で近い将来大地震があると思う人」と尋ねると、9割が手を挙げました。「じゃあ、今夜起きると思う人」と尋ねたら、ほとんど手が上がらない。つまり、みんな災害が起こると思っていても、すぐには起きないと思っています。すぐに起きないと思うと、形式的な対策しか打てません。
もちろん企業において重要なのは経営者の意識で、トップの意識が高い企業はしっかり防災対策ができています。そして、それ以上に大事なのは一人ひとりの防災意識を上げることです。どこにいても、最善の行動や対策が取れるように事前の対策に取り組みましょう。