日々膨大な仕事をこなす一流のクリエイターは、どのように仕事を進めているのでしょうか?

くまモン、相鉄、Oisixなど、多くのプロジェクトを手がけるクリエイティブディレクター・水野学氏。水野氏が大切にする仕事の基本は、意外にも「段取り」とのこと。クリエイティブな仕事にこそ「段取り」が必要だといいます。仕事の量と質、両方上げる仕事の進め方とは?

これからの仕事の基本である、「段取り」の秘密を全公開したのが『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)。この連載では本書から一部を抜粋・再編集し特別公開します。<構成:須崎千春(WORDS)、編集部>

3倍の仕事量を質を下げることなくやり抜く「しくみ」仕事の量と質、両方上げる仕事の進め方のコツとは?

「すごいことをやる」を
ゴールにしない

「すごいことをやってやる!」

 新人デザイナーやクリエイターはしばしば、こんな勘違いをします。これは業種を問わないことかもしれません。それが大事な仕事だと思えば思うほど、力んでしまうという状態です。

「世の中にいまだかつてないものを、俺がつくり出してやろう!」
「みんなをあっと言わせるプロジェクトを成功させよう!」

 ぼくは仕事には「段取り」が必要だとお話ししています(詳しくは第1回をご覧ください)。
 しかし、上記のように「すごいこと」を目指す野望があると、段取りなんてどうでもいいと思いがちです。「段取りは、たしかに単純な業務をこなすには役立つだろうけれど、クリエイティブな仕事にはひらめきと勢いが大事だ!」などと、考えてしまうのです。

 しかし、「すごいこと」を目指すと、力が分散してしまいます。

 野望にとらわれ、「今の市場に必要なのは、誰も見たことのない新しい商品だ!」という、間違った「目的」を把握してしまうと、細部を見落とし、状況が正しく把握できません。また、スタートで力を使い果たしてしまい、最後までやりとげることができません。力がほんとうに必要となるのは、実行していくプロセスなのです。

 たとえていうなら、「俺はビッグになる!社長になる!」と野望を抱いているのに、事業計画も財務計画もまったくない起業家と同じです。その状態で「みんな、黙ってついてこい」と言っても賛同者はいないでしょうし、投資家もお金を出してはくれません。結局、何もなしとげることはできないでしょう。

「すごいこと」を目指さず、淡々と段取りをしていきましょう。
 いつも同じパターンで、確実にやりとげる「しくみ」をつくりましょう。

 ルーティンでひとつひとつこなしていき、そこから生まれた余裕で、仕事の質を高めていくのです。

 結果的に新しいもの、すごいもの、みんなに役立つものができあがれば、ちゃんと世の中に浸透していくはずです。

「すごいこと」は、目指すものではなく、ゴールしたその後からついてくるもの。そのためには、確実にゴールすること。そしてゴールのために段取りをすることです。