どちらのケースも共通するのは、身近な人との関係が影響している点だ。面と向かって不満を訴えるわけではない。万引きに走ること自体がメッセージであり、復讐心も絡んでいる。ここで再発を防ぐために最も必要なのは、周囲の人々との関係改善なのは言うまでもない。「人間関係の中で進行する病」として万引きを考えるのが、本書の重要なスタンスだ。

 常に忘れてはいけない基準は、それが加害者の「行動変容」にどう影響したのかということ。意思の弱さや倫理観のなさを責めたてるだけでは、解決の糸口は見えてこない。罪の意識を押しのけてでもせり上がってくる、盗みの衝動の根本にあるものに向き合うことではじめて、依存のスパイラルから抜け出す道が拓けてくる。

万引きという犯罪が持つ
想像以上の「重さ」を知るきっかけに

 自分たちの生活に関係のない話では決してない。小売店の中には、最初から万引きロスを見込んでその分を商品に上乗せしているところもある。見つけてもいっさい通報しないルールになっている場合もあるそうだ。著者は、依存症の中でもアルコール・薬物などへの「物質依存」に対して、今後は万引きなどの特定の行為に対する「行為プロセス依存」が増えていくとも予想している。一部のエピソードだけ見ると特殊な話に感じてしまうかもしれないが、自分や身近な人が当事者にならない保障はどこにもないのだ。

 万引きがいかに見えにくい犯罪か、どれほど社会的関心が低いのかについても多くのページが割かれている。一読して、関心の低さが問題の遠因になっているようにも感じた。これくらいコンパクトで、とっつきやすい表紙でなければ、自分も手に取っていなかったはずだ。店舗の被害の深刻さ、常習者の立ち直りの難しさ、周囲の人が巻き込まれる災厄の大きさ。万引きという犯罪が持つ想像以上の「重さ」を知るきっかけとして、本書がもっと広まってほしいと思う。

(HONZ 峰尾健一)