会長出身事業にメス
聖域なき改革を行う新野社長の本気度

 今回の役員人事にはもう一つのポイントがある。

 それは、遠藤会長の意に背いてでも、改革を断行する新野社長の決意が込められていることだ。

 象徴的なのは、遠藤会長の担当である企業文化改革を加速するために、新野社長主導で「カルチャー変革本部」を新設したことだ。

 同本部のトップには、GEや日本マイクロソフトで人事を統括した佐藤千佳氏を登用した。

 新野社長は遠藤会長に相談せずに、佐藤氏を選んだ。

 あるNEC幹部は「遠藤会長は10年来、企業文化の改革を訴えてきたが、いかんせん話が概念的で社員が理解できなかった。目に見える人事制度に落とし込むための仕掛けが必要だと新野社長が判断した」とみる。

 新野社長主導の改革はこれにとどまらない。

 遠藤会長の出身事業で聖域化していた海外の無線通信事業にメスを入れようというのだ。

 改革の対象となるのは、携帯電話の基地局と基地局を無線でつなぐパソリンク事業だ。通信速度や堅牢性がウリで、遠藤会長は部長時代にこの事業を世界シェアナンバーワンに押し上げた立役者だ。

 ところが近年は、基地局とのセット販売で攻勢をかける中国のファーウェイにシェアを奪われ、赤字が常態化した。

 「資本市場では、何年も前から、パソリンクが競合に対して相対的優位を構築できない上、収益性の改善が難しいことは明白とみられてきたが、NECはその点を直視してこなかった」(ゴールドマン・サックス証券アナリストの松橋郁夫氏)。

 パソリンクの赤字は17年度、約60億円に上り、売上高はピーク時の1500億円から3分の1ほどに縮小した。全盛期に海外に広げた販売網のリストラが急務だったが、体制の見直しは遅きに失した。遠藤会長がパソリンクについて、「人を減らせばいいというものではない」との考えだったことも影響しているとみられる。

 新野社長は4月、パソリンクについて「黒字化が困難な場合、撤退も視野に入れる」と明言した。「成長の余地がなければいろいろと検討していく」と抑えた表現をしていた1月から徐々にボルテージを上げている。

 リーダーシップを発揮し始めた新野社長は、NECの衰退を止めることができるのか。

 NEC関係者は「役員人事で終わらず、事業部長クラスに有能な若手を抜てきできるかどうかが鍵を握る」と話す。

 現時点では、「人事制度改革はまずは役員から。社員はその後」(中堅幹部)というのが既定路線のようだが、NECに残された時間は少ない。さらなるスピードが必要だろう。