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基調講演でクリエイティブ教育を訴えるAdobe CEO、シャンタヌ・ナラヤン氏

 米ロサンゼルスではAdobe MAXという、クリエイティブの祭典が開催されました。Adobeと言えば、Photoshopに代表されるクリエイティブソフトウェアの業界標準的な存在ですが、そのPhotoshopのフルバージョンがついにiPadに来年登場するというニュースが話題になりました。

Adobeのクリエイティブツール内で
面倒な作業でAIが人間を助けてくれる

 Adobeのメッセージは、人類みんなをストーリーテラーにすることだと言います。そのために、場所や時間、スキル、デバイスに依存しないクリエイティブの環境を整えて行くことを目指していきます。そうした中で、人工知能の役割は小さくないというわけです。

 そしてAdobeは、Adobe Senseiと名付けたクリエイティブ、マーケティング、コンテンツ解析に長けた人工知能を、次々に製品に盛り込んでいます。3時間かかっていた作業を3分で済ませるという象徴的な効率性を、画像、写真、ページレイアウト、3D、AR、ユーザー体験デザインと、あらゆる分野に、ものすごい勢いで適用しているというのが、現在なのです。

 今回用意されたプレス向けのセッションの中で、「AIは人工知能の略だが、クリエイターの仕事を奪ったり、代わりに意思決定をするものではなく、IA(Intelligent Assistant)なのだ」というAdobe社内における認識を披露していたのが印象的でした。

 たしかにAdobe Senseiは、クリエイターがやろうとしていること、たとえば画像の中から不要なオブジェクトを綺麗に取り除いたり、動画の中で歩いている馬を消したり、急な紙のサイズの変更をクライアントに言い渡されても、ワンタッチでレイアウトの変更が完了したりします。

 Adobe MAXに参画している人々にとって、今まで尻込みするような面倒な作業に立ち向かっていけるのであれば、クリエイターはより自由に、日々チャレンジすることができるようになるでしょう。

AIが果たす、クリエイティブの大衆化への役割

 Adobe Senseiによって、より制限が取り払われた表現を、我々は目にするようになるはずです。しかしそれが、クリエイティブを仕事にしていない人たちの創造性をAIが助けてくれることにはなりません。

 Adobeは万人にクリエイティビティの可能性を広げることをミッションに掲げました。そのため、基調講演の冒頭でCEOのシャンタヌ・ナラヤン氏は、クリエイティブ教育の強化を世界中で推し進める考えを明らかにしました。

 Adobe CEOのナラヤン氏は、テクノロジーとクリエイティブのスキルにアクセスできない若者は、将来の重大な不利益を被ると、クリエイティブ教育の重要性を訴えました。

 そうした中で、AIが、非デザイナーにとってどのような役割を果たすのか、AdobeのCTOを務めるアベイ・パラスニス氏に聞いてみました。

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CTOのアベイ・パラスニス氏は、AIの役割、そしてAR制作環境を手がける意味についてアピールした

 「Adobe Senseiフレームワークで完全に変わったのは、モバイルクリエイションという新しいワークフローです。たとえば、Adobe Scanは、スマートフォンのカメラで何ができるかを、Adobe Senseiが持つテクノロジーに『委ねた』アプリです。

 あらゆるドキュメントを自動的に認識し、名刺であれば情報を連絡先に追加できます。あるいは子どもの宿題の作品をスキャンして保存したり、身近なパターンをPhotoshopのブラシにして、イラストに生かすことだってできます。

 あるいは、スマートフォンのLightroomで写真を撮影すれば、Adobe Senseiマジックによって、被写体やシーン、場所、時間などを自動的に認識し、タグ付けしてくれます。ユーザーが何千枚も時間を費やしてタグ付けする必要はないのです。これは大きな変化と言えるでしょう」。

 またAdobe Sparkは日本語化されていませんが、膨大なレイアウトとデザインパターンを元にアレンジすることによって、自分のアイディアを表現に変えて、人に共有できるようになります。

 Creative Cloud担当エグゼクティブバイスプレジデント兼CPO(製品最高責任者)のスコット・ベルスキー氏は、あらゆるクリエイティブは共有されるべきとの考えを語りました。

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CPOのスコット・ベルスキー氏は、Adobeのクリエイティブ製品が目指す姿について、簡潔に語った

 ちょうどAdobe MAXの初日に当たる10月15日に亡くなったMicrosoftの共同創業者、ポール・アレン氏は著書の中で、「アイディアは実行して初めて、意味がある」との金言を遺しています。

 そのプロセスの中で、アイディアを伝える部分はきっかけであり、だれもが避けて通れない最初のステップとなります。だからこそ、そのスキルを持っているかどうかは、将来にわたって重大な差がついてしまう、というわけです。

 個人的には、近年取材してきたのAdobe MAXの中で、もっとも明快かつ力強いメッセージだったと感じています。


matsu

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。米国カリフォルニア州バークレーに拠点を移し、モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

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