たとえば、部下が資料を出した時、上司がこのように言ったらパワハラになるだろうか?

「え?3日もかけてこれ?こんなの半日程度終わらせないと仕事が進まないよ。それに、あれほど入れろと言っておいたポイントが入っていないじゃないか。これでお客さんを説得できると思ってるの?今日中にやり直して。まったく能力ないなぁ」

 まず、前提知識として次の3つの条件を満たせばパワハラになると覚えておいてほしい。

(1) 優位な立場にいるかどうか。上司と部下、先輩と後輩、社歴が長い者と短い者、正規社員と非正規社員、顧客と社員、自分と取引会社など。

(2) それを苦痛と本人が感じているかどうか。それによって就業環境が害されている。これはパワハラ「された」側の論理であり、パワハラ「した」側が「そんなつもりはなかった」としても一切関係ない。

(3) 業務の範囲内かどうか。厳しい言葉であってもそれが業務に必要なものであれば、基本的には問題ないとされる。

 これらの3条件を頭に入れた上で、先ほどの上司の発言を振り返ってみたい。まず、(1)の上司という立場、さらに、この叱責を部下が苦痛と感じれば(2)も当てはまる。残るは(3)だ。口調こそ厳しいが、「3日もかけてこれ?」も、「あれほど入れろと言っておいたポイントが入っていないじゃないか。これでお客さんを説得できると思ってるの?今日中にやり直して」も業務指導の範囲内とされ、パワハラではないと見なされる。

 しかし、ここで問題なのは、最後の一言「能力ないなぁ」である。これは、業務とは無関係の個の侵害とされ、これひとつで即パワハラ認定となる。他にも同種の侮辱行為として、「その性格、どうにかならないの」「だから結婚できないんだよ」「これだから文系(理系)はダメなんだ」などの発言も挙げられる。

 このように、途中までは業務の範囲内の発言であったとしても、社会的な常識から逸脱してしまうような度を超してはいけないのである。怒鳴ったり殴ったりすることだけがパワハラ認定されるというわけではないのだ。