拙著、『知性を磨く』(光文社新書)では、21世紀には、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」「人間力」という7つのレベルの知性を垂直統合した人材が、「21世紀の変革リーダー」として活躍することを述べた。第57回の講義では、「技術」に焦点を当て、拙著『人は、誰もが「多重人格」 − 誰も語らなかった「才能開花の技法」』(光文社新書)において述べたテーマを取り上げよう。
「否定的な想念」が能力を委縮させる
前回(「『論理的な人間』が勘や直観を苦手とする、本当の理由」)の最後に、我々の「深層意識」や「無意識」の世界が、我々の才能開花を妨げているということを述べた。
正確に言えば、我々の「深層意識」や「無意識」の中にある「否定的な想念」や「マイナスの想念」が、我々の中に眠る能力や才能の開花を妨げている。
なぜなら、深層意識や無意識の中にある「否定的な想念」や「マイナスの想念」は、我々の表層意識や意志に関係なく、我々の能力を「萎縮」させてしまうからである。
例えば、いま、床にチョークで30センチ幅の2本の平行線を引く。
そして、誰かに、この30センチの幅の2本の線の中を歩くように言えば、健常者であれば、誰でも、この30センチ幅の道を、踏み外すことなく、真っ直ぐに歩けるだろう。運動神経の良い人ならば、走り抜けることもできるだろう。
ところが、もしこれが、断崖絶壁の上に架かった30センチ幅の丸太橋であったならば、ほとんどの人は、一歩も歩けない。
なぜなら、その瞬間に「橋から落ちるのではないか…」「崖下に落ちたら死ぬ…」という恐怖が心の奥深くに生まれ、その恐怖心のため、「こんな橋、渡れない」という意識が心を支配し、足がすくみ、前に進めなくなってしまうからである。
しかし、本当は、我々は、30センチの幅の道を、踏み外さないようにコントロールしながら歩む「身体的能力」は持っている。けれども、深層意識の世界に恐怖心を抱いただけで、我々は、その「能力」を発揮できなくなってしまう。本来持っている能力が「萎縮」してしまうのである。
例えば、ゴルフの世界でも、優勝が懸かっている場面で、一流のプロフェッショナルが、わずか数十センチのパットを外すことがある。これも、深層意識に生まれる「このパットを外すわけにはいかない」「外したらどうしよう」とのプレッシャーと不安感が、本来持っている能力を「萎縮」させてしまうからである。