昨年、猪俣さんとVRで訓練を始めたところ、初回で5分後には痛みがなくなった。Tさんは「あれっ、治ちゃった!」と思ったほど驚いたという。一日中、しびれや痛みのない日は1週間続いた。それ以来、月2回、研究を兼ねた治療を受けている。

 取材日、Tさんは訓練前「突き刺されるような痛み」「鋭い痛み」「心身ともにうんざりするような痛み」「耐え難い、身のおきどころのない痛み」が「かなりある」と自己評価した。だが、訓練を始めて5~6分後には痛みや気持ちの落ち込みに関するすべての項目で「まったくない」と評価できるまで軽減した。

「痛みが強いときは夜も眠れず、翌日も1日中、気持ちが落ち込んでいます。訓練を受けると気持ちが明るくなりますね」とTさんは感想を話す。「本当は3日に一度は訓練を受けたいぐらい」とも言う。

 開発者で、幻肢痛当事者の猪俣さんもこの治療機器を開発するため、毎日訓練をしていたら「血管を砂利が流れていく痛み」が消失してしまった。特に、Tさんや猪俣さんの「腕神経叢引き抜き損傷」の患者に対する効果は顕著で(図参照)、9割以上の改善効果があるだけでなく、その効果が継続する。

 研究で治療を受けている人の中には「脳梗塞後遺症による視床痛」患者もいて、9人中8人に効果が出ている。だが、「腕神経叢引き抜き損傷患者と比べて、平均的に改善効果が弱めです」と猪俣さんは言う(図参照)。

◎痛みの評価
(1)ズキンズキンと脈打つ痛み、(2)ギクッと走るような痛み、(3)突き刺されるような痛み、(4)鋭い痛み、(5)しめつけられるような痛み、(6)食い込むような痛み、(7)焼け付くような痛み、(8)うずくような痛み、(9)重苦しい痛み、(10)さわると痛い、(11)割れるような痛み、(12)心身ともにうんざりするような痛み、(13)気分が悪くなるような痛み、(14)恐ろしくなるような痛み、(15)耐え難い、身のおきどころのない痛み
※1〜11は体の痛みの感情的評価、12~15は痛みによる情動的(精神面)評価

【46歳男性・腕神経叢引き抜き損傷の場合】

【56歳男性・視床痛の場合】

 幻肢痛は足にも起こるが、現時点のVRリハビリテーションは幻肢痛が腕・手・指先に起こる人を対象にしたプログラムのみ開発した。

 今後はこの治療機器によるリハビリテーションを普及させていきたいと考えている。特に「このVRによる訓練は、急性期(治療初期)から始めてもらいたいです」と猪俣さんは強調する。その際、治療費が安価になるよう、診療保険点数が設定されることを期待している。

「幻肢痛のひどい人は日常生活を送るため、あまり効果がないとわかっていても、いつも痛み止めを手離せません。VRによるリハビリテーションで痛みを軽減・緩和でき、薬を飲まなくても生活ができるようになってほしい」と猪俣さんは話している。