「どうして。どうして出生前診断を受けるの。受けてもし、ダウン症かもしれないと言われたらどうするの。おろすの?ダウン症の赤ちゃんは殺しちゃってもいいの?生まれて来ちゃいけないの」

 最初に脳裏に浮かんだのは、長男を妊娠中、切迫流産(流産しそうになること)で数日間入院した時に医師から見せてもらった超音波診断の画像だった。まだ妊娠4ヵ月ほどだったが、人間の形がほぼできあがっていた。手足をばたつかせている様子を見た医師から「ほうら、赤ちゃん元気ですよ。よかったですね。お母さんも元気出して」と励まされ、千晶さんは胸が熱くなった。

(あの頃から私は、親バカだった。最高にかわいい赤ちゃんだと思ったのよね)

 入院室に空きがなかったため、千晶さんは分娩室の隣にある陣痛中の待機部屋のようなスペースをカーテンで仕切って入院していたのだが、そこには毎朝一人ずつ、中絶手術を受ける女性がやってきて、術後少しだけ休んだ後、帰っていった。

(流産したくなくて、ベッドの上で1日中点滴治療を受けている私とこの女性たち。誰のおなかに宿るかで、こんなにも赤ちゃんの運命が違うなんて。生命の扱いは、全然平等じゃない)

 暗い気持ちになった。

 次に思い出したのは、友人の、ダウン症の子どものことだった。

(ダウン症だと判明して、人工妊娠中絶したとしたら、それはあの子は死んだっていいって思うことと同じなんじゃないかしら。そんなこと、考えられるはずがない)

 ダウン症の赤ちゃんが生まれてくる確率は、平均して600~700人に1人とされているが、出産する時の年齢が高くなるに従って上がる。35歳以上では338人に1人以上、38歳では162人に1人、40歳では84人に1人になる。