どういうことか。一般的にプリンのような「電子マネー」を取り扱う場合、「前払式支払手段発行者」か「資金移動業者」のどちらかの登録業者になる必要がある。

 前払式とは、スマホやICカードに現金を事前にチャージして決済に用いるもので、Suicaなど交通系電子マネーが代表格だ。

 片や、資金移動業者は、1回の決済金額の上限が100万円までとの制約はあるが、銀行法上の為替取引を営むことができる。前払式との最大の違いは、チャージした電子マネーを再び現金に戻すことができる点だ。ただし、認可登録には時間がかかる。

 それ故、ちまたの電子マネーは前払式が多い。プリンも銀行口座との連携は後回しにして、既存の加盟店を利用できるクレカと連携し、前払式として早く事業化すべきだという考えが主流だった。

 しかし、荻原の意見は違った。目指すは、銀行口座のみと連携した資金移動業者だった。クレカを活用すると加盟店の手数料は大きく下がらない上、カードの不正利用が起きると、加盟店と電子マネー業者のどちらが被害者への払戻費用を負担するかでもめることもある。こうした問題を発生させたくなかったのだ。

 それだけではない。アプリと銀行口座間で現金を自由に出し入れできれば、利用者は「スマホの中に現金そのものが入っている」という感覚を持ち、より便利だと思ってくれるはず。加盟店の拡大には遅れが生じるが、それは地道にやればいいと考えていた。

「僕に決めさせてくれないのなら、首にしてくれ」。不退転の決意で説得に臨む。そして17年10月、晴れて資金移動業者の登録とベータ版のローンチにたどり着いた。

 今年3月には正式版をリリース。すぐに、みずほ銀が行うキャッシュレス化の実証実験のパートナーとなり、福島県と北九州市の2カ所の店舗に導入され、地域経済の“現金離れ”に取り組んでいる。

 さらに、三井住友銀行やりそな銀行など大手行と提携し、「18年9月は前月比で利用者が倍増した」と足場を固めつつある。

 キャッシュレス決済は、LINEや米アマゾンなどの参入が相次ぎ、まさに群雄割拠。だが、荻原は「初期段階からとにかくアプリの使い勝手を磨き、利用者や提携銀行、加盟店を増やす。5年後には日本人の大半が知っていることが目標だ」と、野望を抱く。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 田上貴大)

【開発メモ】pring(プリン)
 みずほ銀行とWiL、メタップスの3社で作った、スマートフォン向けお財布アプリ。メッセージ付きの送金や支払い請求が可能で、割り勘支払時の面倒な集金を簡便化できる。QRコードを利用した店頭支払い機能もある。みずほ銀と連携し、キャッシュレス化の実証実験を行っており、北九州市の実験では、小売店や飲食店など約200店舗に導入された。