育てられるのが遅いから、人材が育っていかない

30代で社長を務めることには、合理性があると私は思っています。プロの野球やサッカーでは、40歳前後に引退をしていく選手がほとんどです。それは体力、知力が最も優れているのが、30代だからです。

経営も同じです。経営者は大変な仕事です。朝から晩まで仕事をしなければいけない時もあります。体力的に、さらには知力や頭のキレ味も、30代、40代のほうが、60代、70代よりもはるかに優れていることは間違いありません。

その最高の時期に、社長という、とりわけ難易度の高い仕事をしないのは、もったいないと思います。せっかく優秀な能力があるのに、どうして活かさないのでしょうか。50歳、60歳になれば、またふさわしいポジションに就けばいいと思います。

例えば、私がいた当時のヘンケルのグローバルの社長は今、アディダスのグローバルの社長を務めています。優れた人材は、結果を出しながら、どんどん次のステージに上がっていくのです。

日本では、ビジネスでもそうですし、政治でもそうですが、とにかく上に行くのに時間がかかります。遅いのです。イギリスのブレアさんが首相になったのは、37歳のときです。フランスの今の大統領は39歳、カナダの首相は43歳です。

もちろん、全員が30代で社長を目指せ、と言っているわけではありません。猛スピードで成長を目指す人と、じっくり成長を目指す人と、欧米では両方のキャリアづくりのステップがあり、自分で選ぶことができます。ただ、能力がある人は、その能力を若いうちから最大限に活かすチャンスがあるということです。

実際に社長として経営をしてみてわかったことは、とにかくいろんなことを理解していなくてはならない、ということでした。P&Gのブランドマネージャーはブランドの「疑似社長」であり、利益責任も持っていましたが、実際に社長をやるとなると、営業、生産・調達、人事、財務など、幅広い仕事をしなければいけません。これを身を以て実感することになりました。

MBAはいらない

マネジメントを目指すなら、いろんなことを早いうちから経験していったほうがいいと思います。それこそ30代で国のトップを任せられることになる外資系企業では、そのために、若いうちからいろんな経験を積ませていくわけです。30代でマネジメントというゴールがあるから、そのための取り組みがあるのです。

経営を目指すために、MBAを取りに行く、という選択肢もあるかもしれませんが、私はまったく勧めません。何千万円もかけて留学するくらいなら、コンサルティング会社などで仕事をしながら鍛えられたほうがいいというのが持論です。

私はMBA出身者ともたくさん仕事をしましたが、特定の大学卒の人が必ず仕事ができるとは限らないように、MBA出身者が必ずしも優秀、というわけではありません。正直、優秀さとMBAとはまったく関係がない、というのが私の見解です。

MBAの唯一の魅力は、世界中の優秀で意欲的な人たちと、人脈ができることくらいでしょうか。その人脈も、国内のMBAとなったら、もちろんモチベーションも学習意欲の高い素晴らしい方が多くいらっしゃいますが、海外のMBAと比べたら魅力は半減です。私は、私のまわりで国内MBAに行きたいという人がいたら、その前にまず英語を学ぶことを勧めています。