2015年には347億円という2001年の株式上場以来、過去最大の赤字額を記録した日本マクドナルド。どん底の状況にあったマクドナルドを、マーケティング本部長(当時)として見事に再生させた立役者の一人が、11月21日に発売されたばかりの新刊『マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す「劇薬」の仕事術』の著者、足立光(@hikaruadachi)氏だ。本連載では、P&Gからブーズアレン、ローランド・ベルガー、ヘンケル、ワールドというキャリアで学んできたことを辿る同作のエッセンスを紹介する。第8回はP&Gで徹底されていた評価基準について。

部下やチームを育てられない人は、評価されない

組織で仕事をする上で最も重要なことは何かということも、P&Gで学んだことです。それは、部下を育てることであり、組織を作ることです。

どんなに完璧な仕事をして、優秀な成績を挙げたり、大きな成果を出したとしても、部下やチームを育てられない人は、P&Gでは評価されませんでした。仕事の成果は50点。残り50点は、下を育てないと獲得できません。自分の下から優秀な人がどんどん輩出され、昇進して、社内のほかの仕事に就いていくようでなければ、優秀なマネージャー(管理職)とは認められないと言われていましたし、実際にマネージャーに対してはそのような評価が行われていました。

実は部下を育てていくことで、自分自身の成果も上がっていきます。1人で戦っていても、成果には限界があります。1人よりも、2人のほうが大きな成果につながります。それが3人になり、4人になれば、もっと可能性は大きくなります。

こうしたチームづくりを永続的に行っていくには、優れた人材を育て続けなければいけないのです。だから、人を作ることが仕事の半分だ、と上司からよく言われていました。マネージャーになった後は、自分でもその意識を持っていましたし、部下にもそう伝えていました。

成長するためのトレーニングには、会社の公式なトレーニングなどもありましたが、誰かが自発的に作るトレーニング(というか勉強会)もよくありました。私は、ランチを持って集まって、最近のTVCMを見ながら、良いか・悪いかをディスカッションする集まりを、よくやっていました。自分が思わず商品を買ってしまった、自分自身が心を動かされた、というTVCMを持ち寄って、いろんな分析をしていくのです。それを共有して、お互いに教え合い、高め合う、というわけです。

「人」ではなく「意見」を大切にする

同じように、例えば何かの意見を求めるときにも、ポジションが下の、経験の浅いメンバーから発言するという決まりでした。世の中には、上のポジションの人が真っ先に発言をしたり、そもそも下のポジションの人は会議で発言しない、という会社もありますが、まったくの逆でした。

上のポジションのメンバーが先に発言したりすると、下のポジションのメンバーは、特に見解が違っている場合には、自分の意見を言いにくくなるので、あえてそれをやらないのです。下のポジションのメンバーから意見を聞いていくのです。

私がこれが極めて合理的だと思ったのは、実は一番消費者に近いのは、一番ポジションが下のメンバーだからです。会社や商品にどっぷり染まっておらず、一番消費者データを分析していて、冷静に客観的に商品や会社、事業を見ることができるのです。

逆に一番消費者から遠いのが、一番上のポジションにいる人です。一番消費者から離れている人の発言が最も大きくなったり、なんでも通ってしまったりするような会社は、危険だと思います。

例えば、TVCMを広告代理店から提案された時、その提案に対する意見は、一番下のポジションのメンバーから聞いていきます。上からではなく下から、全員の意見を聞きます。賛成か、反対か、その理由をシンプルに語ってもらいます。

言葉を換えると、「人」ではなく「意見」を大切にするということです。ポジションや権力にひもづいた「人」ではなく、「意見」そのものを重視するのです。これをやらないと、
消費者からはどんどん離れてしまい、ビジネスのために正しい意見が採用されなくなる危険があります。

そもそも下の人ほど、たくさん現場を分析しているものです。本当は正しい意見を持っているはずなのです。だから、フェアに聞かないといけません。そうは言っても、ポジションや権力には力がありますし、下のポジションのメンバーが、上のメンバーと違う意見を言うのが怖いのは当然です。だから、「意見は平等だ」「下から意見を聞こう」と、上のポジションのメンバーがリードする必要があるのです。