「もう5年」ではなく「まだ5年」
――今後の目標があればぜひお聞かせください。
岸見 私は哲学者を名乗っているので、本当の意味での哲学者になりたいと思っています。もっともっとこれまで以上に哲学の勉強を極めたいですね。
古賀 これだけたくさんの方に『嫌われる勇気』を支持していただくと、なんと言うか、自分という人間が本に追い越されちゃったようなイメージがあります(笑)。自分よりも圧倒的に本のほうが有名ですし、『嫌われる勇気』をもう一回書きなさいと言われても、はたしてできるかなと思うこともある。だから個人の目標で言うと、もう一度頑張って『嫌われる勇気』を追い越すような自分でありたいと思います。
一方で、本は自分の子どもみたいなものであり、『嫌われる勇気』も『幸せになる勇気』もすでに巣立っていて、今は世間の荒波にもまれているところだと思うんです。だから、まさに親の心情で、いろいろな人に必要とされ、愛される本になって欲しいなと見守る気持ちです。
――では最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
岸見 ギリシアの哲学者、ヘラクレイトスが「同じ川に二度入ることはできない」という言葉を残しています。川は、同じものとしてあるように見えても、その流れは絶えず変わっていきます。たとえ前の日にその川に足をつけたとしても、次の日に川に足を入れたときは流れも変わっているし、自分も変わっているのです。
『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』は、私たちが長い時間をかけて本当に大変な思いをしてつくった本です。内容も熟知しているはずなのですが、その私たちでさえしばらく時を置いて読むと、「こんなことが書いてあったか」と発見があるのです。つまり読むたびに新しい。ですから読者の方にも、何度も読んで欲しいと強く思います。
古賀 『嫌われる勇気』をつくるとき、岸見先生や編集の柿内さんとは「10年後の古典を」という言葉を掲げていました。いま刊行から5年が経ったわけですが、その意味ではまだ道半ばなのです。『幸せになる勇気』に至っては刊行から3年弱です。これからも真の古典を目指して、もっともっと多くの方にお読みいただきたいと思います。
(終わり)