今から約5年前の2013年12月12日『嫌われる勇気』は出版されました。その約2年後の2016年2月25日には完結編として『幸せになる勇気』が刊行。両書は飛躍的に部数を伸ばし、現在ではシリーズ合計で国内238万部、さらには全世界で約500万部という驚異的な数字を達成しています。
2018年度の年間ベストセラー(ビジネス書)でも『嫌われる勇気』は史上初となる5年連続のトップ10入り。また、Amazonのレビュー数は2000を超え他を圧倒しています。
ここまで長く、多くの方に読まれ、さらには読んだ感想を人に伝えたくなる本を生み出した岸見一郎氏と古賀史健氏に、刊行5年を記念してインタビューを行いました。後編では本を出したことでお二人に生じた変化や今後の目標などについて伺います(前編はこちら)。(撮影:斉藤美春)

『嫌われる勇気』出版後、
著者に生じた変化とは?

――『嫌われる勇気』の最後で哲人と友人になった青年は、新たな人生を歩み出し、『幸せになる勇気』では教師になっています。青年のように、5年前と今、お二人に変化はありましたか。

古賀史健(以下、古賀) 僕はバトンズという会社をつくりました。「書くこと」に特化したライターズ・カンパニーです。そして人を雇い一緒に仕事をするなかで、無意識に自分の幸せだけでなく周りの人たちをどうするか、出版業界や出版という文化をどうしていくかを考え、行動するようになってきたと感じています。皆のために何かをしたいというのも確かですし、やっぱり周りを良くしないと自分自身も良くなれませんから。
 出版業界がもしこのままシュリンクしていけば、回りまわって自分もよくない立場に追い込まれるだろうし、自分が何かをすることで業界全体がよくなるのであれば、是非とも貢献していきたいと思います。この5年間で自分一人だけを見ている自分から、もう少し遠くを見て、周り全体を見る自分に変わった気がします。

――具体的に今はどんなことをされているのですか。

古賀 ライターや書き手の育成は不可欠なので、そういう人たちの教科書になるような本をつくろうと思っています。それが僕にできる貢献だと思うので。

アドラー心理学の入門書『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者・岸見一郎
岸見一郎(きしみ・いちろう)
哲学者。1956年京都生まれ、京都在住。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学。専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。日本アドラー心理学会認定カウンセラー・顧問。世界各国でベストセラーとなり、アドラー心理学の新しい古典となった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』執筆後は、アドラーが生前そうであったように、世界をより善いところとするため、国内外で多くの“青年”に対して精力的に講演・カウンセリング活動を行う。訳書にアドラーの『人生の意味の心理学』『個人心理学講義』、著書に『アドラー心理学入門』『幸福の哲学』などがある。

岸見一郎(以下、岸見) 私はこの5年の間にプラトンの翻訳書を2冊出しました。これは自分にとって非常に大きな変化です。とくに今年8月に出した『ソクラテスの弁明』の翻訳を通じて、『嫌われる勇気』以前と以後では、ギリシア哲学への向き合い方が明らかに変わったことを感じています。
 具体的には、私はプラトンではなくソクラテスに惹かれていたのだと非常に強く思いました。つまり、アカデメイアという学園で教鞭を執っていた研究者としてのプラトンではなく、アテナイという街で青年たちと対話をするソクラテスに惹かれていることがわかったのです。ですから今回は、研究者向けではなく初めてプラトンを読む人が共感できるような解説を書きました。専門家にどう評価されるかはわかりませんが、こういうものが書けるようになった背景には『嫌われる勇気』が強く作用したと思っています。

――もともとのご専門であるギリシア哲学の研究にも、『嫌われる勇気』が変化を与えたわけですね。

岸見 そうですね。それからもう一つの変化としては、実はわりと近くにいる人に強い影響を与えたなという実感もあります。非常にプライベートな話なのですが、2年前に結婚した娘が結婚式で手紙をくれたのです。「考えてみると、私は一度もお父さんに叱られたことがありませんでした」と皆の前で読み上げてくれました。私にとってはすごくありがたかった。「私は叱らない」という話をずっとしてきたのですが、誰も信じてくれなかったので(笑)。
 その娘に子どもが生まれ、おじいちゃんになったことも非常に大きな変化です。娘が子育てに際して私の本に助けを求めたことにも驚きました。そのうえ娘は、子どもがいる友人にまで「お父さんの本をバイブルにしている」と言って薦めてくれているようなのです。私にとっては本当に嬉しい出来事でした。