例えば、菅義偉官房長官は、「外国人労働者の賃金を日本人並みにする」と発言している。しかし、そういう検討事項は、各省庁・自民党政調会の間で曖昧に決められていくはずだった。中小企業は人手不足に悩んでいても、経営を圧迫する「日本人並み」の賃金など、外国人に払いたくないからだ。

 そもそも、「日本人並みの賃金」とは、どういう水準の賃金を指すのか全く不明だ。おそらく、中小企業が自民党政調会に陳情すれば、「日本人並みの賃金」の解釈は曖昧になり、さまざまな特例が設けられ、結果として「日本人の給与を下げていく」方向に向かうはずだ。それで外国人と日本人の給与水準は同じだということになる。そういう曖昧な妥協を積み重ねていくことで、中小企業の票を確保し、保守派の不満を和らげるつもりだったはずだ。

 しかし、外国人技能実習生の人権問題など、さまざまな問題を国民が知ったことで、今後各省庁や自民党政調会での政省令の検討に対して、国民の厳しい視線が向けられることになるだろう。

 日本国民が「民主主義の凄み」を発揮して、外国人単純労働者の人権を守る制度が構築されるよう、安倍政権を厳しくチェックすることを望みたい。そうでなければ、中国、韓国、台湾などとの人材獲得競争に敗れて、日本には思ったほど外国人単純労働者は来てくれないことになる(第197回・P.4)。

「移民政策」は
「国家百年の計」として考えるべき

本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されます。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 少子高齢化の進行による人口減少問題の「標準療法」は、「移民を入れる」という政策以外にありえない。それは確かに、ある種のリスクを伴うものだが、それ以外の治療法はないと考えた方がいい。

 移民を入れたくない保守派などは、いろいろな理屈をこねて、移民は必要ないという。だが、それらはすべて「非標準療法」でしかなく、現実的ではないものである。例えば、保守派は少子化を解決するには、日本伝統の「家族」を復活させるべきだという。しかし、それは「キノコを飲めばガンが治る」という類の「迷信」だということだ(第189回)。

 安倍首相が、「移民政策」であることが明らかなものを「移民政策ではない」と強弁し、外国人労働者を「単純労働力」としかみなさず、人権を保障しない上に、家族の定住も認めないような制度を作り、外国人労働者受け入れどころか、「外国人排斥」のイメージを世界中に打ち出して、結局誰も日本に来なかったということになってはならない。そうなれば、日本は間違いなく衰退する。「国家百年の計」を誤らないよう、すべての政治家、すべての日本国民に求めたい。

(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)