「ようやくここまでたどり着けた」。加藤泰彦・日本造船工業会会長は胸をなで下ろす。

 供給過剰問題をめぐる日韓の対立は根が深い。さかのぼれば、「正直者がばかを見る」を地でいったような日本の過去の造船政策に行き着く。実は日本の造船各社はかつて2度、国の指導の下で設備を縮小したことがある。第2次石油危機の前後とプラザ合意の後、市況が悪化したときのことだ。

 1990年代半ばまで30年強にわたって新造船市場の“主役”を務めた日本が、護送船団方式とはいえ世界の船舶の需給均衡のために身をていするのだから、意義ある政策だったことは間違いない。

 だが、造船新興国の韓国勢は強かだった。海上荷動き量の増加を見込み、90年代後半から大々的に設備を拡張。日本勢が「将来に禍根を残す」と苦言を呈しても聞く耳を持たず、一気に市場を席巻していった。

実現したなら「結果オーライ」
造船界は実質本位

 そんな韓国勢の投資意欲に日本勢が複雑な思いを抱える中、事もあろうに韓国は“ゾンビ企業”を誕生させる一大施策を出した。

 これがWTOで問題提起している大宇造船海洋への金融支援である。経営難に陥った大手造船の大宇に対し、韓国の公的金融機関が15年、約1・2兆円の大規模な金融支援を実施したのだ。

 今年に入ると、船の建造中に造船会社が倒産しても、船の発注者が事前に支払った資金を銀行が代わりに返還してくれる「前受金返還保証」の公的金融機関による発給体制も整備。官民ファンドによる新造船の発注支援も表明した。

 これで堪忍袋の緒が切れ、日本勢は意趣返しのごとく、WTO提訴に向けて一層の熱を注ぐことになったというのだが、造船関係者は事態を見て水面下で口々に言う。「当然、日本政府は徴用工問題に当ててWTOの紛争解決手続きに乗り出したのだろう」。

 いずれにせよ、造船業界にとって徴用工問題はある種の追い風となっている。まず、WTO協議へこぎ着ける最後の一押しとなった可能性が指摘される。15年の大宇支援からすでに3年が経過。待てど暮らせど進まなかったWTO協議が実現するなら「結果オーライ」(造船企業幹部)だった。

 何より、日本が強い姿勢で臨まねばならぬ徴用工問題の手前、造船問題とはいえWTO協議で韓国に負けるわけにはいかない。

 ただ、韓国は11月22日、中小造船への新たな支援策を発表した。WTO協議が韓国へのけん制になり切れていない以上、競争力強化に向け、個別の施策を講じる必要があることも日本勢は忘れてはならない。