ライバルはフェイスブックやウーバー
仮想住民が使えるサービスが次々誕生
ジョバティカルだけでない。エストニア発のさまざまなスタートアップがグローバルフリーランサー向けの支援サービスを展開している。
たとえば、世界中を旅して働くとしても、都市ごとにどのような環境の違いがあるのかを知りたいだろう。それに対して、テレポート(Teleport)というサービスがある。これは生活費や医療の質、自然環境や交通条件など、250以上の都市の比較ができる。
ジョバティカルのサイトでもこれらの指標を見ることができる。仕事の賃金と生活に必要な費用を計算することで、賃金が低くとも、それ以上に生活コストが低ければ、使えるお金が増えるため、選択肢の幅が広がるわけだ。
さらに、ビジネスを行いたい人にとっては、リープイン(LeapIN)というオンラインサービスもある。これは、月額の利用料を払うことで、企業の設立や銀行口座の開設、会計や税、コンプライアンス面でのサポートをしてくれる。本章の冒頭で登場したアレックスもリープインを使って起業した。
もし、事業を拡大したいときに、会社の資金調達はどうすればいいのか。おそらく若い企業が伝統的な銀行からローンを得ることは難しい。
それに対しては、ファンダービーム(Funderbeam)がある。
ブロックチェーン技術を利用することで、資金調達をしたい会社が株式に似た性質を持つ「トークン」を発行し、資金を集めることができるようになった。トークンとは、一般に仮想通貨と交換できる一種の「引換券」で、株式のように会社のオーナーにはなれないが、譲渡できるものだ。
つまり、既存の証券取引市場を介さずとも、多数の投資家から資金を募れるのだ。これがIPO(Initial Public Offering、新規株式公開)をもじったICO(Initial Coin Offering)と言われる仕組みだ。ファンダービームはそのプラットフォームを先駆けて提供してきた。
仕事を探すジョバティカル、住む場所を探すためのテレポート、会社運営のサポート役であるリープイン、資金調達するためのファンダービーム……こうした支援サービスがエストニアから続々と誕生しているのである。
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政府としても、イーレジデンシー取得者同士のコミュニティーをより強化していく狙いがある。フェイスブックのように、地域ごとのグループ向けサービスをつくり、彼らの交流を活発化していく見込みだ。イーレジデンシーチーム・デピュティーディレクターのオット・バター(Ott Vatter)は、ライバルはフェイスブックやアリババといったインターネットカンパニーだと豪語していた。
つまり、イーレジデンシー取得者同士のネットワークに参加できること自体に今後、価値が出てくるのである。
もともとの案では、仮想住民を1000万人にまで広げるという野心的な目標があった。
世界からトップ人材を集め、コミュニティーを作り、会社を生み、貨幣を提供し、経済を活性化させていく――。
小国エストニアは国民をデジタル化し、仮想国家を生み出し、国を大きくしている。