「浜松信金の合併の裏には、静岡市と浜松市の覇権争いがある」

 同信金の経営陣と旧知の間柄である関東地方の信金幹部はこう明かす。かねて静岡市に対抗心を抱く浜松市は、周辺の市町村と合併して拡大、静岡市と同じ政令指定都市にまで上り詰めた。

 だがそれでも満足できず、「静岡市ではなく浜松市を県の中心都市にしたい」という地元の悲願が、浜松信金が磐田信用金庫と合併を決めた“原動力”だというのだ。

 県内1位と5位の合併観測は再編を加速させた。16年末に両信金の理事長が接近し、「県内の有力者であり、全国信用金庫協会の副会長を務める浜松信金理事長の御室健一郎氏が動いたため、周辺の信金はざわめいた」(信金関係者)という。その結果、17年9月に浜松・磐田連合と静岡・焼津連合が合併を発表。同年11月、掛川・島田連合も合併へと踏み切った。

 県下では、さらなる合併観測も飛び交っている。注目株は、浜松・磐田連合の間に取り残された遠州信用金庫だ。「浜松信金とは営業地区の重複が多く、浜松信金が強大化すれば遠州信金に残るのは弱った零細企業のみ」(地元企業関係者)のため、浜松信金に合流するのではとの見立てだ。

 また、掛川・島田連合は「弱者連合であり、合併後の規模でも経営基盤が不十分」(同)と、次の合併が急務との読み筋もある。

 引き続き台風の目とされる浜松信金は、「合併は目的ではなく手段。大きければよいわけではない」(鈴木敏治理事)と即座に次の合併に動くことを否定。今回の合併を機に人員体制を再構築し、「事業承継の相談や海外進出支援などの業務の人手不足を解消する」(同)と経営課題の解決を目指す。まずは提供する金融サービスを充実させ、県内の“絶対王者”である静岡銀行に追随する構えだ。

保守的な新潟含め
3年分の指標で再編可能性を判定

 再編に動いた静岡県とは異なり、再編が停滞し、「経済規模の割に信金と信組の数が多いと感じる」(金融庁幹部)と、複数の金融関係者が名指しするのが、新潟県だ。

 今年10月1日。新潟県内の金融業界は大きな転換点を迎えた。県内最大の第四銀行と同2位の北越銀行が経営統合し、巨大な地域金融グループが誕生したからだ。

 今後3年間で傘下2行の営業先が重なる約50店舗を統廃合し、営業部隊を約500人増員するとぶち上げた。地域の金融機関にとっては脅威に他ならないが、そこにはチャンスも巡ってきた。

 経営統合に混乱は付きもので、第四・北越は21年1月に合併するが、「立場が弱い北越からの退職者が増えた」「第四とも北越とも取引がある企業で、両行による主導権争いが加速した」という声が地元企業から漏れ聞こえてくるのだ。

 すでに「両行と取引がある企業が、サブバンクを求めてくるケースがある」(新潟信用金庫)など、巨大金融グループが攻勢を仕掛ける前に、周囲の金融機関に好機が訪れているというわけだ。

 だが、複数の地元企業と取引する地元関係者は、信金・信組は好機をつかみ切れていないと断じる。「混乱に乗じ、ガツガツ営業をかけるところは皆無」だからだ。

 その原因の一つが、「保守的で穏やかな県民性にある」と地元関係者は口をそろえる。と同時に、県民性のみならず、再三触れてきた地域性が背後に透けて見える。

 どういうことか。その答えは、下図に示した新潟県の金融機関の情勢に隠されている。