これまで診断機器中心だったキヤノンが治療分野への進出に意欲を示し、ヘルスケア業界がざわついています。『週刊ダイヤモンド』1月19日号の第2特集は、「電機・精密・車 ヘルスケア争奪戦」。キヤノンが旧東芝メディカルシステムズを買収して医療機器に本格参入するなど電機・精密・自動車関連メーカーで近年ヘルスケア事業への進出が相次いでいます。その状況をまとめ、深層に迫りました。番外編第1弾として、コニカミノルタのヘルスケア事業強化のため2016年に入社した、専務執行役でヘルスケア事業本部長の藤井清孝氏のインタビューをお届けします。(「週刊ダイヤモンド」編集部 土本匡孝)
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――2016年の東芝メディカルシステムズ買収に手を挙げた際は診断機器を狙いにいき、翌年からは米の遺伝子検査、創薬支援の2社を買収して個別化医療(分子レベルで分析し、早期診断や適切な治療、予防などにつなげる医療)へ大きく舵を切りました。長い時間軸で見れば、フィルム衰退以降、富士フイルムホールディングス(HD)と比べてヘルスケアへの注力が遅い印象です。
まず富士フイルムHDと分野が全然違います。うちは薬を創る会社ではなく、分子レベルの診断の会社。きっちりドメインを決めてやっています。高付加価値型のサービスです。日本の会社がよくやるような、大きな機器を買いに行くという買収の考え方ではない。サービスや知財を買いにいっています。
――ではなぜ個別化医療、なぜ17年だったのでしょうか。
日本が出遅れた最大の理由は公的保険制度にある
技術的な高まりと、薬の創り方が変わってきたからです。例えば私たちのHSTT技術(フィルム技術を応用してがん細胞が持つ特殊なタンパク質だけ光らせる技術)が精緻になってきたのはここ数年。一方で製薬会社もオプジーボみたいな分子標的薬(特定のたんぱく質などを狙って効率よく攻撃する薬)はここ数年の話。野球で言うとまだ1回裏。いろんな打ち手、戦略がとれます。
米国の医療界では、個別化医療に優秀な人がどんどん集まって来ています。
――遺伝子検査は現在、日本で市場がほぼありません。今後のプロセスは?
日本が遅れている最大の理由は公的保険制度。要は病気にかからないと保険がおりません。一方で遺伝子検査はリスク診断が多い。となると予防的な話が多い。でも、米国では医療効果があるとなれば予防にも保険(民間)が適用されます。日本でも遅まきながら乳がん系統の保険収載が一部始まりましたが、それは私たちも特にやっていきたい。それ以外のリスク診断でも今春ぐらいから、非常に精度が高くて米国で証明されているような循環器系統、がん系統などは自由診療で順次展開していこうと考えています。