さらに気になったのが、従来とは異なるタイプの「粒子線治療」である。「陽子線治療」と「重粒子線治療」の二つがあって、どちらもがんを殺す力が強かった。
悩んだ男性はセカンドオピニオンを求めて渡米した。そこで陽子線治療を勧められ、心は決まった。男性は日本に戻り、先進医療を実施する病院で陽子線治療を受けた。
男性は最善と思った治療を受けて満足したが、自己負担は約300万円に上った。一般大衆には民間保険の先進医療特約に加入でもしていなければ、手を出しにくい。富裕層向けの「セレブ医療」ともいわれるが、なけなしの金を投じる者ももちろんいる。
その粒子線治療の価格に大きな変化が起こる。今年4月から患者数の多い前立腺がんが健康保険適用になるのだ。
医療費は150万~160万円と、これまでの約半分になる見通しだ。すると自己負担3割のケースで約50万円。高額療養費制度を利用すれば、さらに自己負担限度額内で済む。
手術、放射線で医療費が横一線
患者奪い合いに
前立腺がん治療の選択肢である手術、放射線治療のIMRTや「小線源治療」などと粒子線治療が医療費で大体横一線に並ぶ。ロボット支援手術やIMRTが前立腺がん患者をごっそりと抱える中、粒子線治療も加わり患者の奪い合いが始まるのだ。
粒子線施設の多くは赤字状態。前立腺がんが最も患者が多いがんであり、その医療費がほぼ半額になった。患者の数を倍にしなければ、同じ収入を得られないのだから、各施設は患者集めに本気になってくるはずだ。
そもそも、粒子線治療とはどんなものなのか。他の放射線治療と何が違うのか。
一般的なエックス(X)線治療では、がん細胞と共に周囲の正常な細胞にも放射線が当たり、人によっては吐き気などの副作用が起こる。
対して粒子線治療は、狙ったがん病巣の位置で線量が最大となり、病巣を突き抜けた瞬間、線量はゼロになる。がん細胞に狙いを定め、周辺にある正常細胞のダメージをより防ぐことができるため、副作用は軽くなるといわれる。
筑波大学病院陽子線治療センターの櫻井英幸部長(同大教授)は、「IMRTなど最先端の放射線治療を超える明らかな優位性が示されているわけではないが、少なくとも同等かそれ以上の治療成績が報告されている」と言う。
一般的な放射線よりも細胞破壊力が強く、治療期間や照射回数は減らしやすい。治療期間はIMRTで2カ月、陽子線で4週間、重粒子線で3週間が目安だ。
治療期間が短くなるとはいっても、手術や従来の放射線治療の方が近くで通える病院の数は多い。粒子線治療施設が近所にあるなんていうのはまれだ。
重粒子線治療だと100億円単位の建設コストが掛かり、施設も大きいため、そうそう設置できない。現在は18施設が稼働している。