巨額の投資を伴い、赤字施設が多い。現状では予定分を含め、このくらいの施設数までで一巡して落ち着きそうだ。もう多過ぎるとの声もある。

 もちろん現状が、粒子線治療が治療の主流になる序章にすぎないのであれば、話は違ってくる。

 「いつかは従来のX線治療の時代が終わって陽子線、重粒子線の時代へと変わるんだろうというイメージをずっと抱いてきた。しかし、実際はそうなるよりも、X線治療でIMRTのような開発が進んだ」と日本放射線腫瘍学会の茂松直之理事長(慶應義塾大学教授)は言う。

 「粒子線治療は装置の技術革新がもっと必要。小型化や低価格化で1台20億円、10億円の世界になれば、X線の最先端装置の倍くらいになって手が届く」

 4月には粒子線装置で国内1位の三菱電機の同事業を、2位の日立製作所が統合する。果たしてこれが技術革新を加速させるものとなるのか──。

前立腺がん保険適用に落胆のなぜ

 保険適用で新たな治療選択肢が加わったとはいえ、前立腺がんの治療法はすでに完成度が高い。粒子線治療が治療効果で大差をつけるのはなかなか難しい。進化するX線治療などに圧倒的な優越性を示す可能性が秘められているとしたら、二次発がんの抑制である。

 二次発がんとは、一度がんになって治療した人が、その後に再びがんを発症するもの。がんが治る治療となったが故に、再びがんになる可能性も出てくるのだ。

 「がんになっても治療して長く生きる時代になっただけに、放射線治療で二次がんになるというのを抑えたい。粒子線治療はがん病巣以外に線量がかからないため、理論的に計算上では、二次がんの発生率が低い」と前出の櫻井部長。「X線に比べて粒子線治療は二次がんリスクが低いということ(優越性)を、実際に患者のデータから立証していきたい」。

 そして目下の課題は、粒子線治療の特徴を発揮できるがん種への治療の普及だ。

 患者や医師からは「なぜ前立腺がんなの?」という、落胆や悲痛の声が聞こえる。「保険適用を優先してほしかったがんがもっとあった」のである。

 肝がんや希少ながんなど他の治療選択肢が少ないがんで実績があり、これらのがんで粒子線治療は真価を発揮するともいわれる(下図参照)。