
春、桜の開花と併せて世間の注目を集めるのが、高校別の東京大学合格者数ランキングだ。躍進だの凋落だのと、まるでお祭り騒ぎのようにメディアは書き立てる。しかし高校の東大合格者数の増減には、分かりやすい力学がある。それを知っていると、たいていの躍進も凋落も驚くことではなくなる。特集『わが子がぐんぐん伸びる!中高一貫校&塾&小学校』の#5では、高校別の東大合格者数ランキングの深層を明らかにする。(教育ジャーナリスト おおたとしまさ)
日比谷と横浜翠嵐の躍進の裏に
「4年周期の法則」あり
高校の東京大学合格者数の増減における一つ目の力学は、「隔年現象」だ。1年置きに合格者数が増えたり減ったりする現象のことだ。理由は簡単。現役生が多数合格した翌年は、浪人生が少ないので現役・浪人を合わせた合格者数は減る。逆に現役合格者が少なかった翌年は現浪合計の合格者数は増える。「浪人をしてでも……」という気持ちで挑む受験生が多い東大だからこそ、この傾向は顕著に出る。今年(2025年)、男子御三家の一角、麻布が東大合格者数を伸ばしたのは典型的な隔年現象といえる。
次に「7年周期の法則」と「4年周期の法則」。例えば6年間通う中高一貫校の場合、今年、つまり25年の東大合格者数が多かった学校は、7年後の32年の合格者数も多くなることが予測できる。25年の東大合格者数の多さを見て、将来は東大に通わせたいと思っている家庭の優秀な子どもたちが、26年の中学受験でその学校をたくさん受けるからだ。その子たちが6年後の東大入試で結果を出す。すると、その7年後にまたいい数字が出る。3年間の高校単体の学校の場合だと、それが4年周期になる。

今年注目されている東京都立日比谷や神奈川県立横浜翠嵐の躍進もこれで説明できる。さかのぼること4年前の21年もこの両校は東大合格者数を飛躍させていた。さらに、その4年前には、両校と受験生を取り合うライバル関係にある国立の東京学芸大学附属高校のいじめトラブルがその前年末に大きく報道された影響で、学力上位層が日比谷や横浜翠嵐に流れるという混乱があった。それが21年の両校の飛躍の“前提”にある。
つまり、17年のライバルの失策が、4年周期の法則を2サイクル経由して、今年の実績に跳ね返ってきたといえるのだ。もちろん、現場のたゆまぬ努力あってこそだが、マクロで見れば、そういう追い風も吹いていたという説明が可能なのである。
一方で、当然ながら向かい風も生じる。「○○校凋落!」などとメディアが騒ぐと、その7年後か4年後にその学校の東大合格者数は減る。不祥事が大きく報道されても同様の現象が起こる。駒場東邦の今年の合格者数の減少は、17年以降連続した不祥事報道とその後の混乱で説明が可能だ。
次ページでは、「隔年現象」や「7年/4年周期の法則」以上に、高校(中高一貫校)の東大合格者数を飛躍的に伸ばす要因となった“共通項”を明らかにする。