
トランプ米大統領が半導体関税を導入する方針を表明した。狙い撃ちするのは台湾のサプライチェーン(供給網)だ。これにより、米エヌビディアが、台湾積体電路製造(TSMC)や鴻海精密工業など台湾企業を巻き込んで、AI(人工知能)半導体のサプライチェーンを米国に移管する計画が動き始めた。特集『絶頂か崩壊か 半導体AIバブル』の#11では、その衝撃と矛盾に迫る。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
台湾のサプライチェーンを
米国に移管する露骨な狙い
「TSMCは米国で製造すれば関税はかからない。米国はTSMCの投資で最先端チップの世界シェアを拡大していくだろう」
トランプ米大統領が半導体関税のターゲットに据えたのは、台湾だった。台湾積体電路製造(TSMC)は世界中の半導体企業の生産を受託している。この宣言により、TSMCを中心とするサプライチェーン(供給網)を米国に移管するという“途方もない試み”が表面化することになった。
すでにTSMCの魏哲家・最高経営責任者(CEO)は3月3日、ホワイトハウスでトランプ氏と並んで記者会見し、アリゾナ州の半導体工場の建設計画に1000億ドルを追加投資することを表明した。これによりTSMCのアリゾナ州での半導体工場の建設計画は総額1650億ドルに達する見通しで、外国企業として米国史上最大の直接投資になる。
さらに、トランプ氏が半導体関税を表明した翌日の4月14日には、米エヌビディアが、台湾で製造してきたAI半導体とAIサーバーを米国内で製造する計画を発表した。
これにより、グーグル、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、メタなど米巨大IT企業は、米国で建設する巨大データセンターに必要なAIインフラを米国内で調達できることになる。
つまり、トランプ氏が関税を「ディール」のツールとして、半導体の製造からデータセンターの建設までの「サプライチェーンの全て」を自国に囲い込もうとする狙いがあらわになった格好だ。
もっとも、半導体産業は国際的な分業体制の下で発展してきた歴史があり、そのサプライチェーンは1国だけで完結するものではない。果たして、それを強引に崩そうとするトランプ氏の試みは現実的に可能なのだろうか。次ページで、その衝撃と矛盾に迫る。