胸を押さえて、へたりこみそうになったその時、電車は停車し、降車する人の波に乗って、孝子さんはホームに吐き出された。

 よろよろとベンチまで歩き、座り込む。走り去っていく電車の音が、なんだか遠い。そのまま10分ほどじっとしていると、症状は不思議なほど唐突に消えた。もし、このまま続くようなら、救急車を呼んでもらわないといけないと思っていた矢先だった。

 会社に電話し、遅刻する旨を伝え、さらに15分ほど休んでから電車に乗り、孝子さんは無事、出社することできた。

(一体、なんだったんだろう。疲れているのかな。でも、あんなこと生まれて初めて)

心臓は「異常なし」
でも異常はある

 帰りの電車は何事もなく帰れたが、翌朝の電車ではまた、同様の症状に襲われた。それが3日続いた後、孝子さんはたまらず、病院を受診することにした。「心臓・動悸・呼吸困難・吐き気」でウェブ検索すると、出てきた病名は「心臓病」。どうやら「心筋梗塞」があやしい。というわけで、そこそこ大きな病院の循環器内科を受診した。

 問診に加え、心電図、血液検査等を受けたが異常は発見されなかった。医師は心因性の病気を疑い、「心療内科」を受診するよう勧めてきた。だが納得がいかない孝子さんは、さらに詳しく調べてもらうためにマルチスライスCT検査を希望した。しかし、結果は同じく異常なしだった。

「特に異常はないですね。今度発作が起きた場合は、すぐに受診してみてはいかがでしょう。何か分かるかもしれません」

 医者に言われ、病院を辞したものの、孝子さんはすっきりしない。当然だ。異常がないと言われても、実際、異常は3日も続けて起きているからだ。それに、あれほどの激しい症状が、「心因性」だとはどうしても思えない。

(もしかしたら、不整脈かもしれないわ。前兆がまったくない人でも、ある日いきなり起きて、死ぬこともあるのよね。最近、若いアイドルの子も亡くなっているし)