現に清水氏の興味は知能にある。手書きの文字や図から、そこにどんな真意があるのか、この先何を書こうとしたのか読み取ることができれば、人間の気持ちや思考の流れが分かると考えているわけだ。

 そのために有効なのが、ディープラーニング(深層学習。AIを支える技術)だと見抜いていたからこそ、北野氏はenchantMOONに魅力を感じたのだとされる。清水氏はまさに、最高の“使い手”に出会ったのだ。

 一方、齋藤真・ギリア副社長によれば、ソニーにとっても、清水氏は欠けたパズルのピースだったという。どういうことか。

カンフル剤として
「異分子」人材が必要

 齋藤氏はソニー本体の出身だ。ITジャイアントをしのぐサービスを創出するには、ソニーとは別のR&D部隊が必要だと経営側に提案。ゲーム業界に身を置いた経験を持ち、クリエーターの生態に詳しい平井一夫社長(現会長)の賛同を取り付け、ソニーCSLでのインキュベーションプログラムを実現した。

 しかし、大ヒットゲーム機「プレイステーション」に取って代わるレベルの開発を行うには、ソニーの文化を超越するカンフル剤が必要なことに気付く。

 そんなときに目に留まったのが清水氏だった。「理想を実現するためなら、世の中の批判を承知で商品を具現化する。こんなリスクの取り方ができる人はソニーにはいない」(齋藤氏)とほれ込んだ。

 ソニーCSLと清水氏の協業は、インキュベーションプログラムでのR&Dから始まった。ソニーサイドが巧みだったのは、合弁設立前にも、R&Dの業務委託という形で、清水氏のR&Dに資金を拠出していたことだ(図版)。

 予算請求の手順の厳守と正当性の提示に万全を期しつつ、開発資金という実弾を用意した齋藤氏に、清水氏の信頼は高まった。

 ソニーグループが清水氏を抱き込んだように、大企業にとって、IT業界のスーパーエンジニアを引き入れることは変革の第一歩となりそうだ。