また、今回の刑事事件について、当初、筆者はこれまでの医療に関する刑事事件の無罪判決(例えば、産婦が帝王切開時に死亡したことで医師が逮捕・起訴された福島県立大野病院事件、綿菓子を食べていた男児が転倒し、割りばしがのどの奥に突き刺さって死亡した杏林大学病院割りばし事件等)から、医療行為そのものが刑事事件に問われる難しさについて取材していたが、医療裁判に詳しい後藤貞人弁護士(大阪弁護士会所属)から「治療過程の過失が問題となる医療事故とは異なる」と指摘された。

 それでは、本訴訟の無罪判決とはどんな内容だったのか。

あなたは、どんな証拠なら
有罪を受け入れられるか

 今回の一連の裁判(13回)で被告人弁護団は、検察側の主張の根拠となったアミラーゼ鑑定とDNA型鑑定の信用性について、何度も問いただす場面があった。

 それは、もちろん被告人が有罪か無罪かを決定するための重要な役割を果たすからだが(だからといって、判決はさまざまな視点から総合的に判断されるが)、それだけでなくこの背景には、これまで歴史的に複数人の弁護士や鑑定人等が何度もDNA鑑定を含む「科学的な証拠の信用性とは何か」について指摘してきたこととも関連する。

 判決後の記者会見で、本訴訟の主任弁護人の高野隆弁護士は「裁判所は、科捜研(科学捜査研究所)の鑑定を極めて杜撰(ずさん)と強い表現で断じた」と話した。また、高野弁護士は、筆者の取材時、今回の裁判を振り返り、現状の司法のしくみの課題として「証拠採用のルールの厳格化」を強調した。

「裁判官は証拠のゲートキーパーです。ゲートキーパーの役割は証拠を厳選することです。しかし、日本の裁判所は証拠採用のルールが厳格でありません。本来、今回のDNA鑑定は排除されるべきでしたが、裁判長は証拠として採用しました」

 この点は、前述の後藤弁護士も「本訴訟では証拠採用手続きの適正さが問われた」と指摘する。

 今回の判決文では科捜研研究員に対して「誠実さに欠ける。職業意識の低さ」とも表現した。だが、そうだろうか。今回の事件の鑑定を担当し、証人として証言した研究員は、このDNA鑑定をルーティンでこなしていたような口ぶりだった。それでも、これまでは特に問題が起こらなかったが、今回は判決に大きな影響を与えるまでになった。

 つまり、これは個人の資質ではなく、市民に有罪を問う証拠を扱う組織に、社会の目が入りにくかったことが問題ではないかと考える。