「同じクラスの子が好きになったらしかった。名前を聞いても知らない子だったが、妻は知っているらしかった。『あとでどんな子なのか妻に聞いてみよう』と考えていると、『パパに言ったのが初めて!』と娘が言った。『パパ以外に知らない。まだママにも話していない』とのこと」
Bさんが真っ先に思ったのは「これはマズい」だった。
「相談役は妻だとばかり思っていたので、自分が妻に先んじてこのような告白をされたのは複雑。自分なんかが先に聞いていいのかという。
なぜ妻に先に言わなかったのかを聞くと特に理由はないらしかったので、話したいと思った時にたまたま自分がそこにいたからのだろうと。『ママにも教えてあげな。きっと喜ぶよ』と言っておいた」
それからBさんは仕事に出かけ、その日遅くに帰宅した。娘は寝ていて、妻が起きていた。
「『聞いた?』と妻に尋ねると『何が?』と言うので、好きな人ができたと娘に打ち明けられたことを教えました。妻はまだ知らなかったみたいで、『私に話すのが恥ずかしかったのかな』と笑い、自分が先に相談されなかったことをなんとも思っていないふうに振る舞っていたが、こちらはハラハラしてしまった。『なんとも思っていないなんてありえないだろう』と」
どうすればいいかわからなくなったBさんは「じゃあ風呂入るわ」と空々しく、その後も気配を消して床に就いた。翌日も気配を消して仕事に出かけ、とぼけた顔をして帰宅した。いつもはBさんが「今日、娘はどうだった?」と聞くのが夫婦の習わしだが、この時ばかりはBさんから口を開くのははばかられた。
黙ってテレビを見ていると、妻から「好きな子の話、聞いたよ」と切り出された。
「心底よかったと思い、途中から妻の心配というより『なんとなく気まずいけど、どう立ち回ろう』という自分の心配になっていたことに気づいて申し訳なく思った。そのあと妻からその好きな子について詳しく話を聞くことができた。
今回のようなことがこの先起こらないとは限らないので、その時どうせまたどうすればいいかわかならなくなって固まってしまうのだろうが、心の準備だけでも一応しておこうと思う(笑)」