「成績優秀な大学生が自宅やオフィスをお掃除します」。フロリダ大学の学生が創業した清掃サービス会社、スチューデント・メイド。創業から10年、“非常識なまでに徹底した、社員を大切にする経営”により、全米で大評判となった同社の採用面接には、今やミレニアル世代を中心にさまざまな世代が押し寄せるという――。この連載では、同社の創業者、クリステン・ハディードの著書『離職率75%、低賃金の仕事なのに才能ある若者が殺到する奇跡の会社』(クリステン・ハディード著/本荘修二監訳/矢羽野薫訳)の記事からその驚くべきストーリーやノウハウを紹介し、同書にインスパイアされた各回で活躍されている方のインタビューを掲載していきます。

チアリーダーとしてのリーダー

 スチューデント・メイドで初めて私の言葉で他人を鼓舞したときのことは、よく覚えている。1年目の夏の出来事だった。チームを立て直したすぐ後に、私はアパートメントの部屋を順番にのぞきながら、ミネラルウォーターのボトルを配り、一生懸命に働く学生に感謝を伝えて回った。ある部屋に行くと2人が掃除をしていたが、私のメモでは3人いるはずだった。

「こんにちは!」私は2人に1本ずつ水を渡した。「ビルも一緒だと思うんだけど?」

「ええ」。学生の1人が廊下の先を指さした。「彼は……向こうにいます。バスルームを掃除しているというか……まあ、そんな感じです」

 そんな感じ? 彼女が指を差したほうに行くと、言いたいことはすぐにわかった。ビルはゆっくり、ゆっくり、トイレの便器をこすっていた。こんなにゆっくりとした仕草で掃除をする人を、私は見たことがなかった。前かがみになって立ち、カタツムリと同じくらいのスピードで便器の縁に沿ってブラシを動かしていたが、ブラシの毛はほとんど当たっていなかった。

「ビル、調子はどう?」ボスが突然現れたら、あわてて手を早めるかもしれないと思ったが、彼は私に気づいていないかのようだった。額からしたたる汗が、便器の中の水にはねる音だけが聞こえた。

「大丈夫?」私は少し心配になった。

「大丈夫です」。彼は大きなため息をついた。「バスルームの掃除にうんざりしているだけです」私はがっかりした。こんなところにだけはいたくないという、ゾンビのような彼の顔がすべてを物語っていた。すでに一度、私を見捨てようとしたことのあるビルが、再び去ろうとしているのは間違いなかった。

 でも、私たちにはビルが必要だった。人手が足りず、必死に掃除しても追いつかない毎日だった。何とかして彼のやる気を取り戻さなければならない。今すぐに。

 急いで、と言うべきだろうか? お菓子で買収する? 彼からトイレブラシをひったくって、そのブラシでたたくとか? どれも正解ではなさそうだった。