「テレビはないの」
理沙は時計を見て言った。ちょうどニュースの時間だ。
森嶋はパソコンを立ち上げた。
昼間、葉山の邸宅で会った巨漢のインターナショナル・リンクCEO、ビクター・ダラスが会見を開いている。
〈この評価は固定されるものではありません。流動的なものです。今後、日本が災害に対して適切な対策を取り、経済についても回復の見込みが見られれば直ちに評価を上げるものです〉
と、付け加えるのを忘れなかった。
次に総理の会見に移った。
〈政府と都民、国民の迅速かつ適切な作業により、現在では平常の生活に戻っています。地震の影響はほとんどありません。これは我が国が日ごろから災害に備えてきた賜物です〉
総理は今朝、地震による災害の収束宣言をした。だが実際には、建物や各種のインフラは元に戻っているが、都内の多くのビルでは建物の正確な被害状況すら把握できていない。室内の片付けもまだ終わっていないのだ。
しかしながら、東日本大震災以後、企業のデータのバックアップは進んでいて、すでに見かけ上は平常の機能を取り戻している。
「あなた、これを知らなかったの」
「僕も2段階のダウンと聞いていました。だから驚いています」
森嶋はウソを言った。インターナショナル・リンクCEOのダラスに会ったといえば、ますます怒りだし、会わせろと言うに決まっている。
「なぜこうなったの。あなたのアメリカのお友達からは、何も言ってこなかったの」
理沙は語気を荒げた。彼女にとっては、よほど予想外のことだったのだ。
「おかげで私のメンツは丸つぶれ。でも3段階の降格なんて誰が予想出来るっていうの。日本がマレーシアと同じ、タイと同じ経済なの」
理沙は1人つぶやいている。