技術開発はうまいが、
在庫管理は下手だった

 ティム・クックが来るまで、アップル社では新製品を市場投入するたびに旧製品の膨大な在庫に悩まされていた。このことに世間もマスコミも気を留めていなかった。

 しかし、実際には数百万ドルもの損失となって、アップルを苦しめていて、いかにして不要な在庫を最小化するかは、アップルの経営にとって大きな問題のはずだった。それにもかかわらず、世界を驚かせる製品を生み出すことに全力を挙げるアップルにとって、創業以来、在庫管理という仕事のプライオリティーは極めて低かった。

 1995年頃、つまり、クック以前では、「アップル製品には3つの価格サイクルがある」と言われていた。

 詳しく説明しよう。まず、製品発売時の価格がエントリープライス(初期価格)だ。たとえば、35万円の初期価格で販売開始したマッキントッシュは、時間経過とともにどうしても販売は減速していってしまう。

 そこである日、ミッドターム・プライス(中間期価格)の25万円に一気に価格ダウンする。すると、販売は一旦、息を吹き返すものの、そう長くは続かない。しかたなく次の新製品が登場するタイミングに合わせて、EOLプライスを付ける。EOLとはエンド・オブ・ライフの意味で、いわば「たたき売り価格」だ。新製品が登場すれば旧製品に価値はなくなる。もし、EOLプライスが15万円だとすると、結局35万円で売り出したマッキントッシュは、最後には15万円でたたき売りしていたことになる。

 当時のアップルは、エントリープライスで利益を稼ぎ、ミッドターム・プライスは利益スレスレで、EOLプライスだと赤字になっていた。3つの価格全体を総じて利益が出ればいいという極めて大雑把な考え方をしていた。それはアップルの社内常識であり、創業者のジョブズの思考回路を反映したものとも言えた。新製品を生み出すことに情熱を傾けるアップルだが、在庫管理や生産管理は下手くそで、手を抜いていた。