昭和の歌謡曲ヒットメーカーで直木賞作家としても知られる山口洋子も数奇な人生を送る。五木ひろしの「よこはま・たそがれ」や石原裕次郎の「ブランデーグラス」など多数のヒット曲を作詞し、1985年には『演歌の虫』『老梅』で直木賞を受賞。銀座の女帝として〈姫〉を経営する傍ら、芸能人や銀座のママなど多くの有名人を輩出している。

「昭和が疼く、
ノスタルジーが沁みる」

 著者・北迫薫は、裕子の姪である。裕子が結婚する前から「富貴楼」で一緒に暮らしていた。裕子が失踪した後、裕子の情報が一家にもたらされた時に、家族が血相を変えて旅の支度をしだす、そんな様子をずっと目にしてきた。著者が、叔母の人生を書き残したいという気持ちは、他の著書を読んで事実と異なる話が一人歩きをしていたからという。そして、銀座の夜など想像もつかないものだから、石井妙子氏の『おそめ 伝説の銀座マダム』やDVD「夜の蝶」、「黒の十人の女」など多くの資料を漁ってはイメージを膨らませた。

 本書を見つけた時、「昭和が疼く、ノスタルジーが沁みる」という帯のキャッチコピーが私にはピンとこなかった。“大衆キャバレー”や“文壇バー”が、現在の世界観とかけ離れていて、どうしてもイメージがつかなかった。しかし今思うのは、当時の甘くて切ない、ある種の可愛らしさを含む世界の方が、現在よりも真っ当な気がして、少し羨ましい思う。この時代を知らない人にとっても、不夜城を誇る銀座・活気溢れる地方を背景とした人々の生活を知ることは、自分の中の思いがけない感情をドキドキさせる、きっかけになるのかもしれない。

(HONZ 刀根明日香)