一方の観客に対しても、選手の名前をリアルタイムに画面上にスーパーインポーズしたり、選手と選手が何ヤード離れているかを示したり、選手の動きの軌跡を表示したりなど、プレーのデジタル化による新たなエクスペリエンス(体験)を提供できる。
バスケットボールでも、デジタル化投資が活発に行われている。
アリーナの天井に4台のカメラを設置し、撮影した映像をもとに選手の動きをデジタル化する。ある選手は何ヤード離れたところからシュートを打ち、その成功率は何%か。ある選手はどの位置からのシュートがもっとも成功率が高いか。すべてのプレーをデータ化し、集計して分析する。
アメリカンフットボール同様、監督やコーチ、選手にとってプラスアルファのデータとなるばかりでなく、観客にとっても新しいエクスペリエンスが提供される。このデータが、一般の人たちに無料でオープンデータ化されているからだ。
選手別のデータ、チーム別のデータがインターネット上に掲載されていて、サードパーティがアプリをつくり始めている。こうしたアプリに親和性の高い若年層のファンが増えている。アメリカのスポーツ界はファンの高齢化が問題になっていたようだが、この試みによって若年層のファンが増え、放映権料が上がったという。
おそらく、オープンデータ化を始めたときは、放映権料が上がり、収益にまで貢献するとは思っていなかったはずだ。走りながらチャレンジし続けることで、新たな価値が生まれたのだ。
スポーツに限らず、ICT(情報通信技術)投資をするにあたってリターンの数字を尋ねる経営者は多い。しかし、これは新たなチャレンジのブレーキとなる。
新たな価値が生まれるかどうかは、やってみなければわからない。アメフトやバスケの事例のように、デジタル化によって顧客に新たなエクスペリエンスを提供できるのであれば、やらないよりはやったほうがいい。はじめはあまり収益性を重視せず、一歩踏み出すことが重要だ。
欧米では、スポーツ業界のトップもデジタル化に前向きになっている。今後、あらゆるデータを集めていくことで、想像もしなかった活用方法が出てくるかもしれない。
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第1回 まもなく到来する「データ・ドリブン・エコノミー」とは何か?
第2回 デジタル革命は「助走期」から「飛翔期」へ。真のデジタル社会はいつ訪れるか?
東京大学大学院工学系研究科教授
1965年生まれ。1987年東京大学工学部電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年東京大学大学院工学系研究科教授。2007年東京大学先端科学技術研究センター教授。2017年4月より現職。
IoT(モノのインターネット)、M2M(機械間通信)、ビッグデータ、センサネットワーク、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。ビッグデータ時代の情報ネットワーク社会はどうあるべきか、情報通信技術は将来の社会をどのように変えるのか、について明確な指針を与えることを目指す。
電子情報通信学会論文賞(3回)、情報処理学会論文賞、ドコモ・モバイル・サイエンス賞、総務大臣表彰、志田林三郎賞などを受賞。OECDデジタル経済政策委員会(CDEP)副議長、新世代IoT/M2Mコンソーシアム会長、電子情報通信学会副会長、総務省情報通信審議会委員、国土交通省国立研究開発法人審議会委員などを歴任。
著書に『データ・ドリブン・エコノミー』(ダイヤモンド社)がある。