ただ、デジタル変革は現場との連携が欠かせないので、社内の現業部門のデジタル変革を行うために別の組織をつくってしまうと、現場との距離がますます開いてしまう。このような場合には、雑音を入れずに没頭できる環境を放棄してでも、現業部門とは切り離さないほうがいい。

 自律分散型の組織も考慮に値する

 デジタル変革を推進する組織は、そもそも計画を設定することができない。また、現場に入り込んで協働・連携しながら弾力的・創造的に対応する必要がある。自律的な状況判断と行動力をもって価値の創造につなげていかなければいけない。そのため、海兵隊と同じように、状況に応じてあらゆる手段を駆使するのに適した自律分散型のネットワーク組織も重要だ。

 デジタル変革の対象となる現業部門は、デジタル化を進めなくても回っていく。わざわざデジタル化に協力しろと言っても、なかなか受け入れてもらえない。協働相手に対する共感で知を共有し、価値創出につなげていくことが必要だ。一人ひとりが多種多様な組織や人々を結びつけ、巻き込んでいくような自律分散型組織には突破力がある。

 もちろん、トップマネジメントが「デジタルをやるぞ」と言い続けることは必須だ。そのうえで、草の根的にデジタルを浸透させる部隊をつくって継続的に取り組んでいく形にするべきだろう。

 海兵隊として踏み出すタイミングは、早ければ早いほどいい。「同業他社が成果を出してから取り組み始めても遅くはないのでは?」と思う向きもあろうが、競争に勝ち抜くためには早いほうがいい。デジタル化ではエコシステムの構築が一つのカギとなり、それが構築されてしまうとあとから入るのが難しくなるためだ。入れたとしても、主導権を握ることはできない。そのリスクを考えると、早く踏み出すに越したことはない。

 建設機械業界では、コマツがデジタル化にいち早く取り組んだ。その結果、コマツのエコシステムが形成され始めている。多様な業種のレベルの高い企業が集まり、貴重なデータが自然と集まってくるようになりつつある。

 そうなってしまうと、対抗するライバル会社が同じことをやろうとしても、関係先がすべて二番手以降のエコシステムしかつくれない。先行者利益がある場合も、それを得られる可能性はほとんどなくなる。

 先に走ったために失敗し、その失敗を学んだ後続が成功を収めるパターンもないわけではない。だが、先に走ることはリスクもあるが、リターンも大きくなる。「Winner takes all」がデジタル世界の成功法則であることに留意しておかなければならない。