その意味で、短気な経営者ではデジタル化はなかなかうまくいかない。すぐに結果を求めるからだ。経営者は数字を求めてはならない。デジタル化によって単年度でどれだけ売り上げが上がるか、3年後にはどれだけの成長が見込めるか、利益はどれだけ上がるかと追い込むと、一歩も踏み出せない。

 むしろ、R&D(研究開発)のように考えるべきだ。R&Dのマネジメントは難しく、先行投資の成否は先にならないとわからない。うまくいっていないプロジェクトをどのように評価するかについては、経営者の問題だ。

 結局のところ、最終的にはデジタルは絶対に隅々まで行き渡る。そう思えるかどうかで耐えられるかどうかが決まる。当面の浮き沈みに影響されてはならない。

デジタル推進に適した組織形態とは?

 前述の「知の深化」と「知の探索」と似たような言葉に、金融業界にはRTB(Run the Bank/Run the Business)とCTB(Change the Bank/Change the Business)という言葉がある。RTBはビジネスを維持する活動で、CTBはビジネスを変革する活動のことを言う。

 RTBとCTBはまったく違うものだ。必要とされる組織も違えば、必要とされる人材像も違う。これをどのようにして一つの会社に同居させるかは、かなり難しい作業だ。その意味でも、CTBについては海兵隊の組織が参考になる。

 グーグルはかつて、CTBタイプの人材が多かった。しかし、ここまで企業規模が拡大したいま、RTB系の人材が増えてきた。CTB系の人材は、この先に崖があり、落ちるとわかっていても一歩踏み出す。落ちても痛みを感じない。こういう人材がグーグルにはたくさんいたが、相対的に少なくなってきたように感じるときがある。もちろん、軌道に乗った事業を回していくにはRTB系の人材が必要だし、彼ら彼女たちがしっかりと収益を上げるので、そうなるのはやむを得ない。企業には両方のタイプの人材が必要である。

 組織のつくり方には二つのパターンがある。一つは別組織をつくる。もう一つは横断的な組織をつくる。どちらがよいというものではない。適した組織は状況に応じて変わり得る。

 マイクロソフトが家庭用ゲーム機「Xbox」を開発したとき、それを開発した部署は社内でも秘密の組織だった。発表する直前にようやく社内で公開されたという。完璧に切り離していたからこそ、雑音が入らずに開発に没頭できたのだ。