かつて、構造モニタリングや地震モニタリングのために、建物にセンサを付け、揺れたときにそれぞれの階のセンサの数値を計測する実証実験を行ったことがある。

 そのときの相手方は鹿島建設だった。私たちIT業界側と建築・土木業界側がなぜうまくいったのか。それは、お互いが真ん中まで歩み寄ったからだ。大手だからといって鹿島建設がふんぞり返って「いいものを持ってくればやってやるよ」と言っていたら、成果は出せなかった。

 まったく違う業界の人が集まるときには、歩み寄れる何かがないと厳しい。それは、アナログの人間力だと思う。デジタル化を進めようとするときに、重要なのがアナログの人間力であるのは面白い。AIやIoTによって職がなくなると言われるなか、そこに生きる道があるのは興味深い事実だ。

 経営学者の野中郁次郎氏が、アグリガールを評して「利他と共感」と言った。この二つの資質が、アグリガールが知的創造力を発揮した証だという。利他とは、自分を犠牲にしてでも他人に利益を与えること。共感とは、人の考えを自分も同じように感じたり理解したりすること。どちらも相手が喜ぶことだ。その観点から考えないと、異業種間連携はうまくいかない。

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第1回 まもなく到来する「データ・ドリブン・エコノミー」とは何か?
第2回 デジタル革命は「助走期」から「飛翔期」へ。真のデジタル社会はいつ訪れるか?
第3回 デジタル革命の主役は「ウェブデータ」から「リアルデータ」へ

森川博之(Hiroyuki Morikawa)
東京大学大学院工学系研究科教授
1965年生まれ。1987年東京大学工学部電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年東京大学大学院工学系研究科教授。2007年東京大学先端科学技術研究センター教授。2017年4月より現職。
IoT(モノのインターネット)、M2M(機械間通信)、ビッグデータ、センサネットワーク、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。ビッグデータ時代の情報ネットワーク社会はどうあるべきか、情報通信技術は将来の社会をどのように変えるのか、について明確な指針を与えることを目指す。
電子情報通信学会論文賞(3回)、情報処理学会論文賞、ドコモ・モバイル・サイエンス賞、総務大臣表彰、志田林三郎賞などを受賞。OECDデジタル経済政策委員会(CDEP)副議長、新世代IoT/M2Mコンソーシアム会長、電子情報通信学会副会長、総務省情報通信審議会委員、国土交通省国立研究開発法人審議会委員などを歴任。
著書に『データ・ドリブン・エコノミー』(ダイヤモンド社)がある。