木彫りの象を見た初日、Aさんは購入を保留した。「まだ時間はあるし、どうしても欲しくなったら後日買いに来よう」と考えていたが、象への思いは膨らむばかりであった。

 旅程最終日、Aさんは最後にもう一度その象を見て進退を決めることにした。こう考えている時点でほぼAさんは購入するつもりだったのかもしれない。果たして、目の前にした象は虚ろな目でAさんの前に鎮座していた。Aさんは「買おう!」と決心した。たまの機会のこの散財、説明すれば妻も怒らず、きっと理解してくれるであろう。

 現地の友人が店員との値段交渉に当たってくれた。最終的に3万円を1万3000円まで値下げすることができた。それだけ値引きが可能な当初の値段設定もどうかと思いつつ、Aさんは欲しくて仕方がないオーラを出していたので、友人曰く「もっと渋る様子を見せておけば9000円くらいまでは値引きできたのではないか」だそうである。

 友人はAさんの買い物にやや引き気味の雰囲気を見せていたが、「貨幣価値が違うから彼にはものすごく大きな買い物に映ったのかな」とAさんは考えた。Aさんは非常にいい買い物ができたことに満足し、友人に深く感謝し、配送料節約のためパッキンされた重量ある木彫りの象を自前で抱えてふうふう言いながら帰国した。

届いたカードの利用明細
身に覚えのない請求金額

 木彫りの象はAさん宅の玄関に鎮座することになった。来客をうつろな目で出迎える象は存在感があり、Aさんはそれにも満足していた。

 翌月、カードの利用明細が来た。一応確認すると13万円とある。はて、そんな散財はした覚えがない。すでに焦りで視界が赤く染まっていたが、なんの間違いであろうかと念のため確認すると、あの木彫りの象を買ったショップの請求である。Aさんは一気に発汗した。「まさか詐欺か! 海外のショップだからこのようなことが起こりうるのか。これは面倒なことになったがなんとかして差額分を取り戻さないと……」と、混乱した頭で明細を眺めながら目まぐるしく考えていると、現地通貨の購入額と換算レートが書いてある箇所を発見した。「4800リンギット」とあって、レートは1リンギット=27円である。計算すると13万円になる。