「坊や哲」は「出目徳」という詐術を駆使する雀士によってイカサマのテクニックまで覚え、プロのギャンブラーとして修羅場に踏み込む。「出目徳」からは「大四喜字一色十枚爆弾」や「二の二天和」といった、字面を見ただけでのけぞりそうな大技を教わる。

「出目徳」が「二の二天和」を「坊や哲」を使って仕組み、「ドサ健」を身ぐるみ剥ぐ場面が単行本第5巻だ。「天和」とは、配牌ですでにあがっているというスーパー役満である。

 麻雀用語をいくつか使ってしまったが、文字だけだとわかりにくい。ルールを知らないと麻雀漫画も理解できないのではないか、と思われがちだが、そんなことはない。並べた牌が画像化されている小説では直感で理解できるし、本作のような漫画化作品ならばいっそうわかりやすい。囲碁のルールを知らなくても『ヒカルの碁』が面白かったのと同じことである。

 バラックが立ち並ぶ貧しい戦後の東京で、皮膚がヒリヒリするような冷たくて熱い言葉のやりとりをするギャンブラーの物語には独特の魅力がある。

原作者の阿佐田は、バクチ打ちで
大衆小説と純文学の二刀流作家

 双葉社の漫画『麻雀放浪記』は現在、「週刊大衆」に連載されているが、何度目かのコミカライズである。作画は嶺岸信明だ。彼は麻雀漫画を多数書いているベテランだが、私が嶺岸の存在を知ったのは、『オールドボーイ』(双葉社)である。

 この作品は「漫画アクション」で1996年から98年まで連載され、双葉社から全8巻で単行本化されている。有名になったのは、韓国のパク・チャヌク監督が映画化し、2003年に公開してからである。なんと第57回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞している。『オールドボーイ』も健全な社会ではなく、異常でダークな世界を描いた物語で、ガラスをひっかく音を聞かされるような漫画である。『オールドボーイ』の漫画家ならば『麻雀放浪記』のコミカライズはぴったりだと思った。

 1970年代の高校生、大学生にとって、原作者の阿佐田哲也はダークサイドのヒーローだった。作家だが、じつは実際の麻雀ゲームでも極め付きの達人だったのである。

 そして、高校生でも阿佐田哲也が純文学の作家、色川武大の別名だと知るようになる。なんと多彩な小説家だろうか。色川はすでに有名だった。1961年に中央公論新人賞を受賞していたからである。おまけにジャズや映画批評でもすでに知られた存在だった。