米国のMMTはやめてほしい

 特に、米国のMMTは肯定できない。1つには米国自身のために、そしてもう1つには米国以外の経済のために。

 米国は、日本よりインフレ体質の国である。「物価が上がると賃金が上がり、それが物価をさらに押し上げる」サイクルが日本より働きやすい。日本の正社員は終身雇用かつ年功序列なのでインフレ時に賃上げしなくても会社を辞めないが、米国はそうではないからだ。

 加えて、米国人消費者はインフレになると「買い急ぎ」をするため、インフレが加速しやすいだろう。日本人消費者はインフレになると「老後のための蓄えが目減りしてしまったから節約しなければ」と考える人が多いが、それとは事情が異なるからだ。

 米国人は日本人ほど将来のことを不安視しないという国民性に加え、米国人の金融資産はインフレでも目減りしない株式等のウエートが高いからだ。

 最近、先進国ではインフレが起きていないので、次にインフレがきた時にそうなるか否かは何ともいえないが、そうなる可能性は決して低くなさそうだ。

 したがって、米国の財政赤字拡大は日本より危険であるから、MMTは米国自身のためにも採用すべきではないだろう。

基軸通貨の混乱は世界に迷惑

 日本がMMTを採用しても、メリットとデメリットは主に国内に限られるが、米国がMMTを採用する場合にはそれにとどまらない。メリットは主に国内に限られるが、デメリットは世界中に及びかねないのだ。

 例えば、米国が激しいインフレに見舞われて金融が大幅に引き締められた場合、世界中で貿易や投資や融資に使われている米ドルが不足したり、金利が高騰したりする。米国以外の国にとっては大迷惑である。

「米国が受けるメリットと米国が受けるかもしれないデメリットだけを比べればMMTは良い物であるが、諸外国の受ける迷惑の可能性まで考えればMMTは悪いものである」という場合に、米国はどうするのであろうか。

「米国ファースト」の発想で他国の迷惑を顧みずMMTを導入するようなことは、ぜひともやめてもらいたいものである。もっとも、諸外国としては米国ファーストを止める手段を持たないので、祈ったり頼み込んだりするしかないのだが。